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□ボコ愛 03:噛む
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化け物ってのは厄介なもんだ。
奴らは頭部を潰そうが内臓を刔り出そうが心の臓を握り潰そうが再生してしまう。
そんな奴らを殺ろうっていうなら塵も残らないように破壊しつくすしかない。
…しかし、上には上がいるもんだ。
神様って残酷だよな。こんなもん作るくらいならここらで一発大洪水を引き起こして世界滅ぼせってんだ。
ああ、それとも神様は人間が苦しんでもがく姿がお好きなのかね。まあそりゃそうさな。自分より下のもんが蟻のように散り散りになる姿はさぞ滑稽だろうさ。


「…いいや、奴らは表面上では人を愛するという体裁をとっているくらいなのだから、表ではきちんと悲しむふりをすると思うぞ」

なんだそりゃ。神様にも格好ってもんがあるのか。
そりゃ初耳だなあ。


「当たり前だ。たかが人間風情が神のことを語れるものか」

ふん、じゃあなんだ。お前は神様だとでも言いたいのか。


「いいや。あんな下劣なものと同じにするな。虫ずが走るわ」

私は朱い月だ。
何も考えずにほいほい世界を創るような脳みそがすっからかんな連中と同じにするな。

そう早口にまくし立ててさぞ不愉快だとでも言うように整った眉を寄せ、偉そうに踏ん反り返っているこの世で最も厄介な化け物が一人。
…いや、表記としては別に一匹でも当て嵌まる気がするが。


「おい、聞いているのか魔導元帥」
「はいはい、ちゃんと聞いてるって」

不機嫌な王様は数ヶ月ぶりに話したというのに俺が適当に応対するものだからそれが気に食わなかったらしい。…こういうところが無駄に人間っぽいんだよな、この愛しい化け物は。

すると奴はいつも座っている玉座を音もたてずに立ち上がったかと思えば、けだるそうにそこらの床へ胡座をかいていた俺の肩を軽く押し、のしかかってきやがった。
しかもお前怪力なんだからさ、もう少し手加減してくれないと俺の身体がぶっ壊れるぞ。ああ、肩いてえ…。
…まあ、お前なりに手加減したっていうのは分かるんだがな。押すときの雰囲気がちょっとおそるおそるといった感じだったし。


…………。


…少し、話が脱線しすぎたようだ。
とりあえず俺は現在、このお姫様のような容貌の王様に押し倒されていた。
なので頬に奴の長い金糸の一部がかかり、少しくすぐったい。


「どうした、アルティメットワン」
「…………魔導元帥」
「なんだ」
「気付いているだろうが、私は今とても不機嫌だ」
「あーうん、そうだな。すごく綺麗な笑顔なところが最高に怖ぇ」
「…そんな私を放置してみろ、一つの悲劇が起こるぞ」
「え…悲劇ってなに…シェイクスピアより酷いやつ?」
「そのシェイクスなんたらとかいうのは知らんが…とにかく酷いぞ」
「……誰が、どういった風に?」
「リィゾがとても可哀相なことになる」
「………うっわ」

その一言で簡単に予想がつく辺り俺もどうかと思うが、流石にこんなくだらないことであの黒騎士を巻き込むのはあまりにも哀れだ。
…ただでさえ普段から酷い目にあってるっていうのによ。
だってさ、今日顔を合わせた時あいつ左腕がなかったんだぜ?
いくら不死だから生えるとはいっても普通本気で引きちぎるかって。しかもめっちゃ恨めしそうに睨みつけられたし。
…つまり原因は最近ここに来るのをサボった俺ってわけだな。で、シュトラウトは八つ当たりでアルティメットワンに左腕を引きちぎられたと。
うわ、こうして考えると本当にあいつ可哀相な役回りだなあおい。


「……次は右腕でもちぎるのか?」
「いや、それをしたら両腕がなくなるからな。いくらなんでも可哀相ではないか。だから次は臓器はえぐる」
「……………」

あのさ、普通ちぎるのもえぐるのも痛いことには変わりないから。むしろ内臓のほうが生きるためには必要だし。いくらあいつが不死でもさ、普通に痛覚はあるんだぜ?


「……………よし、分かった」
「何がだ」
「久しぶりに会ったんだ。ちょいと興じようじゃないか、アルティメットワン」

というわけで、形勢逆転。
朱い月って力だけはありえないくらいに強いが、体重だけでいくなら非常に軽いので俺がのしかかるようにして身体を押したら簡単にころんと転がってくれた。
…生憎、俺みたいなおっさんがあんあん喘いでも気持ち悪いだけなんでな。


「今日一日中構ってやるから、それで機嫌をなおせよ…朱い月」


覆いかぶさった状態でそう囁き、細い首に少し強く歯を立て噛み付いてやると美しい化け物は少しだけ機嫌をなおしたのか、口唇をゆるく上げ、俺の首に腕を回して身を委ねた。



( 噛む )



end


エロスイッチが入ると普通名前を呼び出す変態宝石翁。
そしてそれがまんざらでもない朱い月。

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