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□ボコ愛 02:つねる
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何度も啄むように唇を合わせ、触れるだけのキスを繰り返す。
…決して深い口付けまではいかないよう、触れては離れ、触れては離れるという繰り返しの行為。
それをリィゾのほうも最初の辺りは甘んじて受けていたようだが、どうやらそのあまりの繰り返しに飽いてしまったらしい。
苛立ったようにこちらへと腕を伸ばし、唇を合わせてくる。そしてそのまま実力行使で深い口付けに移ろうとしてきた。
ならばこちらも実力行使だとフィナは自身より一回りは細いであろうリィゾの手首を掴み、一旦無理矢理唇を離す。すると名残惜しそうに二人の間で引いた銀糸が非常に煽情的で、堪らない。
自身の熱が昂ぶるのをフィナは感じながらもそれを抑え込み、再度リィゾに触れるだけの口付けを与えた。…当のリィゾはというと、わけがわからないとでもいうような目つきでこちらを見つめていたのだが。とりあえずそれには気付かないふりをする。
今は決して情欲に溺れたいわけではない。リィゾはきっと馬鹿らしいと笑うだろうが、ただ触れていたいだけなのだ。
触れて、抱きしめて、口付けて。彼の温もりを実感したい。ただそれだけのこと。
行為に及ぶのなんて、その後でいくらでもできることなのだから。

…なので強く強く、目の前の漆黒を抱きしめる。
自身とは対称的な色合いをしているその身が愛おしくて堪らない。離したくない、閉じ込めていたいという願望が募ってゆくのをただひたすら、強く抱きしめてごまかす。
濃い菫色の髪に鼻先を埋めると、柔らかな石鹸の香りがしてどこか懐かしく感じた。


「どうしたフィナ…今日はやけに鬱陶しいな」
「ええ、どうやら今日は過度の甘えた日のようです。」
「……成る程」

そう短く返答した後、リィゾは納得のいったような表情をしてもなお、フィナの腕の中でもぞもぞと動き微かな抵抗を示していたようだが、それもすぐに諦めたのか大人しくフィナの胸に寄り掛かるようにして身を任せる。
それをいいことにフィナもリィゾの腰へと腕をまわし、抱き抱えるようにしてそれはそれは愛おしそうに彼の唇へと口付けた。

瞬間、ぴりっとした鋭い痛みがフィナの頬を襲う。
何事かと目を見張ると、自身の両頬を見覚えのある指先がつねっている。…お世辞にも綺麗とはいえない、豆だらけのそれは厳しい訓練を今も続けている愛しい剣士のものだ。


「…いひゃいれふよ、りぃほー」
「喧しい。いい加減鬱陶しすぎるんだよ、貴様は」
「いひゃいいひゃい!ふよふふかはらいへ(強く掴まないで)!!!」
「……心配せずとも俺は離れんよ、馬鹿者が」
「………」

すると今度は労るようにリィゾはフィナの頬を撫でたかと思えば、自身から顔を近付けゆっくりと唇を合わせる。そして小さなリップ音を響かせながら離れていく端整な顔をフィナは何とも言えない表情で見つめていた。
欲望も、望みも、不安ですらも目の前の想い人にはすべてを見透かされていたという事実に対する自身の不甲斐なさと、胸を満たしてゆく安堵という名の大きな、波。

例えば朝露が葉から葉へと落ちるような、巣から落とされた今だ目も開いておらぬ雛鳥のような、そんな運命の必然さと残酷さの中で足掻き生きる愚かで愛おしい、人間達のような。そんななだらかで、何処でも存在している柔らかな波がゆっくり、ゆっくりと自らの内に設置されているメーターを埋めていく。
フィナはいつしか冷たくなっていた自身の体温が徐々に戻っていくのをまじまじと感じた。


「………リィゾ」
「なんだ」
「好きです」
「…何を今更」
「反応冷たいなあ…でもそんなところも好きなんですよ」
「知ってるよ、ばか」


そう小さく笑いながらリィゾは再度フィナの頬を引っ張る。
そのひりひりとした小さな痛みはフィナ自身が今一度と想い人へ落とした深い口付けに飲み込まれ、甘美な渦の中へと消えてしまった。



(つねる)



end


全然ボコっていない件について\^o^/

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