鹿

-惚れたもん負け-
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(飛段Side)

桜が降る並木道と
春の日差しに照らされれば
一年の始まりを告げる鐘が鳴る

「サボりてえ」

そう呟いても隣にいる
無愛想なクラスメイトは
そっけない態度で
「勝手にしろ」と一言

そんでもって
つかつかと俺の前を歩く

「ひっでー」と口を尖らすけど
サボるのもめんどくさくなった俺は
仕方なく体育館へと足を運んだ

パイプ椅子に座り
足を組んではあ、と溜息を着く

「これより、第三十五回
新入生入学式を始めます。
新入生入場。」

これを聞くのはもう三度目だ

ぞろぞろと箱に敷き詰められる様に
体育館には新入生が入場してくる

これからの学園生活を楽しみにしてるのか
希望に満ちた顔してるやつ
がっちがちに緊張してるやつ
入学そうそうめんどくさそうに
しているやつ

ぼけーと眺めてたが
やっぱり飽きて
このまま寝てしまおうかと
瞼を落とした

「新入生代表、奈良シカマル。」

つらつらと長ったらしい
校長の話が終わり
次は新入生代表の言葉

つまり今年の入学試験が
トップだった者が
今後この学校でどうやって
過ごして行きたいか在校生や
教職員へと発表する
しきたりみたいなもん

正直内容は興味無えが
どんな奴かは気になった

なんせ今年の新入生のトップだ

ぜってー鼻高々に
意気がってるに決まってる

俺が目を開けたときには
もう教壇の階段を上っていて
正面からでは顔が見えなくて

ただ、後ろに結わいてある長髪が
男子校には不慣れで珍しく
女かよ、と叫んでやりたかったが
ぐっと堪えた

やっとそいつは全校生徒と向かい合い
設置されたマイクを手に取ることなく
数秒間隔を開けて口を開いた





「…三年間適当に過ごすんで
適当に宜しくお願いします。」





それだけ言うとそいつは
礼儀良く一礼をして
壇上を降りてった

りんとした顔付きは
しん、と静まりかえってた体育館を
たちまち奮い立たせて

あの教職員達も慌てた様子で
なんだか笑えて来る

そんな中
そいつは悠々と階段を退けて
自らのパイプイス席に座った

あーあ

あいつ学校全体から
完璧に目ェ付けられたな

でも



面白れえ



どうやら最後の学園生活は
退屈ではなさそうだな、と
根拠も無く一人嘲笑った



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