振り

□ひっつきたいんだ
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泉くんが、呼びにきてくれました。


「なな、飯」

「うん」

「今日も上でいっか?」

「うん」

あ、ちなみに上って屋上のことです。
いつも同じ場所で食べるのに、泉くんは迎えにきてくれます。体育のあとでも音楽の移動教室のあとでも、九組から一組まで迎えにきてくれます。わたしがいつか一度、屋上で待ち合わせようと言ったらむつかしい顔をして「すれ違うとめんどいだろ」と言われてしまいました。正論だけれど、泉くん部活の集まりだってあるのに。



わたしのサンドイッチと、泉くんのおにぎりを交換しました。

「お前の親父さん料理うまいよな」

「泉くんのお母さんのおにぎりもおいしいよ」

「ただのおにぎりだろ」

お互いにもぐもぐしながらのんびり会話をします。今日もいい天気です。泉くんと隣同士、この慣れた距離もすごくいい感じです。
食べ終わったらお昼寝をします。二人で寝るので、授業に遅れないように携帯の目覚ましをセットします。でも今日わたしは眠たくありません。泉くんに付き合ってお昼寝もいいですが、わたしは泉くんの顔を見てたいです。


泉くんに膝枕を提案しました。


「はあ!?」

「…」

「…あ」

「…。ごめんなさい」

「いや、だから…」

「ごめんなさい」

「や、違うってっ」


泉くんの引きつった顔がショックでした。普段しないことしようと思い付きで言ってしまったことを後悔しました。そんなに嫌だとは思ってもみませんでした。わたしだめだなあ。泉くんのこと、全然わかってないんだなあ。
視線を落としていたら、泉くんがなにかを言いかけました。顔を上げたら口をあんぐりとあけた泉くんと目が合いました。あ、マヨネーズが口元についています。


「あ、」

「…」

「だから…俺、その」


わかっています。泉くんいきなり大声出してわたしをびっくりさせたと思ってるんですよね。びっくりしたけれど、大丈夫です。それよりごめんなさい。わたしまた泉くんを困らせてしまいました。
あ、わたし、泣きそうです。


「部活の奴とかに、あとでからかわれるから…」


苦しそうにつぶやく泉くんの声が、うっすら私に届きました。言葉の意味がよくわからなくて泉くんをぼーっと見ていると、くりんとした大きな瞳が一瞬揺れて、ほっぺたがみるみる赤くなります。


「ああ!だからっ、…膝かせよ!」


ぽすんと泉くんの頭がわたしの膝にのっかりました。わあ!泉くんどんな心境の変化ですか!?び、びっくりしました。
とゆうかうつ伏せ苦しくないんでしょうか。聞こうとしても、なぜだか照れてしまって言葉が出ません。
しばらくの沈黙がおりてきて、やり場のない手を泉くんの頭にのせて撫でてみます。ふわふわした髪の毛と、可愛いつむじ。
一瞬泣きそうになった自分が嘘みたいです。現金なわたし。いずみくんで一喜一憂できるわたし。


「俺だってお前とこうやってひっつきてーよ?」

「!」


スカート越しに突然伝わった振動に肩が跳ねました。


「お前とどこでもこうやって。けどさ、学校なんて、誰が見てるかわかんねぇし…」


泉くんが抱えるようにして私の膝にうずくまります。とってもくすぐったいです。
膝がふるふるしてしまいそうで神経を集中して泉くんの言葉を耳に吸い込みます。だって泉くん、必死になにか言おうとしています。


「恥ずかしかったから」

「…」

「部活の連中とかうっさいんだって」


弄ぶかのように私の膝を鼻でくすぐります。だからくすぐったいですってば泉くん。そろそろ限界ですよ。うつぶせそろそろやめてほしいなあ。


「だから、ごめんな」


「いず、」


「大声出してごめんな」


「泉くん、こっち向いて」



私の言葉にいずみくんは振り向きました。おお。だいぶましです。
そして私の予想通り泉くんの口元のマヨネーズはとれていました。スカートに多分ついてるんだろうなあとか思っていたら、物欲しそうに光る泉くんの視線に気づきます。それがあんまりにも可愛かったので、また頭をなで始めました。











おわり
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