ななの家に来るときは大抵こいつの部屋で過ごすんだが、飯食ってないとか言うから台所を借りて簡単にお粥でもつくってやることにした。 ななはめちゃくちゃ遠慮したけど、ベットから起き上がって俺を止めようとするときの動きのおぼつかなさに呆れて、押し切った。 ならせめて作るとこ見てたいっ、と枯れた喉で言うから台所まで連れてった。 「おま、靴下はいてねーじゃん!」 「あ…と、寝るとき気持ち悪いから」 「あのな〜。…スリッパどこ?」 「はいたらこ、こけるの」 「…」 鮮明に想像できるなおい。 まあ、こいつの部屋に靴下あるだろうしとってくればいいかと思いななを台所の椅子に座らせてとりに行くことにした。 「座ってろよ」 うん。ありがとう、とななが言うのを背中で聞いて、また二階に上がる。 靴下をとって、引き出しを閉める。なんか俺あいつの何がどこにあるとか完璧だな…。 よく考えたら俺の持ってきたもんもあるし。(アレとか…)つーかまた新しい下着買ってたんだな。いったいどれくらいのサイズになってんだろ。 …はいそこまで。悶々としてどうすんの。ななは風邪だろ? いろいろ気持ち押し込めて台所のドアを開けると、ビクッとするななと目があう。 あ、こいつ、座ってろっつったのに。 小さい鍋に湯を張って沸かそうとしているらしかった。 ななの腕を掴んで椅子に戻す。おたおたしながらも抵抗はしない。そうだ。病人はおとなしくしてろ。 「座ってろって」 「え、えっと」 「靴下」 「あ、うん」 椅子に座ったまま靴下をはきだすのを横目でみて、俺は粥作りに取りかかった。 こんなもんかな。 この味付けななにあうかな?けっこう濃いめ好きだかんなー。 「いい匂い」 「あ、起きてたのか」 「なんで?」 「静かだったから」 「はないくんのこと見てたからね」 へろっと言ってのけて、やんわり笑うなな。 顔に熱が集まるのを見られたくなくて下を向いて鍋を運ぶ。 う、うつわに移した方がいいか?とかって聞くべきなんだろうか…。 「えへへ。はないくんのおかゆうれしいな」 赤いほっぺたして言うもんだから、どうにかなりそうだった。 このまま食べちゃうね?と嬉しそうに鍋の乗っかった鍋敷きを自分に引き寄せる。 俺はお前をこのまま食いてーよ…っておっさんか俺は。 …。 とりあえず座ろうと椅子を引いて、ななの正面に座った。 「あついから、冷まして食えよ」 「むっ!」 いってるそばから…。 必死にこらえるななに苦笑いして、鍋を鍋敷きごと取り上げる。もぐもぐしながらななが顔を上げた。 「なん、で」 「混ぜたら冷めやすいし。さじかして」 スプーンを受け取って小さな鍋を混ぜる。舌が痛い…とつぶやくななの声が聞こえて、「あついって言っただろ」て返した。 少し混ぜて、ひとすくい。ななの目の前にそれを差し出すと、ななは固まってしまった。 「…。食えよ」 「…ぁ、あ」 真っ赤になった。 は? な、なに? 俺なんかしたかよっ。 「い、いただきます」 ぱく、とさじの頭と粥を口に入れるなな。 顔は以前赤いまんまで、よく見ると、なんか異様にまばたきしてるんだけど。だ、大丈夫か?まだ熱かったか?や、でもけっこう混ぜたし、息も当てたし。 つか、いつ口離すんだこれ…。ぅ、ぅおーい。ななさーん? 油断してたら、目が合ってしまった。 うっわ!やばいなんかやばい!くわえたまま頬染めるとかやばいやばすぎる!はなせ!口をはなせぃ! 不純な思考を悟られたくなくて慌てて目を伏せた。 ちゅっ 軽いリップ音と共にななの唇が離れた。 まて、音が出るってことは吸ってたってことだよな。ってやめろ俺!冷静な分析で自分自身を追い詰めてんぞ! 「おいしいよ」 「…」 やばい。 「はないくん?」 やばいやばいやばい。 俺なに感じてんの!ななが不審がるから!なんか言わねーと。 「わり、ちょっとトイレかりる」 椅子を引いて立ち上がる。鍋を戻して押し付けるようにスプーンを握らせる。…目が合わせられない。 「う?」 「じ、自分で食える?」 「えっ、うん。…大丈夫?」 「や、うん。別に」 な、なんてありがちな脱出方法なんだろう…。情けなさすぎる。 あー。ななどう思ってんだろ俺のこと。キョドってねーか俺? めまいを覚えながら、俺はドアに手をかけた。 (おわり?) |