振り

□びこーずゆー
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なんで、だと?



泣いてるこいつを見てさらに腹がたった。
なんでなにもわからないんだ。
なんで気づかないんだ。

ああ、知ってるこれ、すげーダサい感情。
誰かにぶつけるなんて俺らしくないからずっと溜めてきたけど、
でも、今俺は。




フラッシュバックしたのはあの日の夕方。
一組の教室にななを迎えにいったとき、真っ赤な夕日の中でお前は田島の腕の中で笑ってた。
田島はともかくお前が馬鹿なのは知ってる。華奢で無防備で人の悪意に気づかない。
…男の下心にも気づかない。




「俺ななちょー好き!」


「あはは。わたしもだよ」



別にこんなの初めてのことじゃない。
なながクラスの奴に借り物したついでにメアドもらってたり、明らかにわざとぶつかってきた男子に必死で謝ってたり。
でもだからって、なあ。

お前、自分が天然だからなにも知らなくていいと思ってんのか?
何も知らないから、そんな簡単に笑ってもいいと思ってんのか?


腕の力をこめたのか、ななが苦しいよ、たじまくん、とつぶやいた。
二人を睨み付けてたら、田島と目が合って少し動揺した。
さらに眉間にしわを寄せて強くにらんだら、



  色のない瞳で田島が笑った。




「は?」

俺は思わず声がでた。

田島の視線を追ってななが俺に気づく。


「あ!あべくん!待ってたよ」


帰ろう、と笑顔で俺のそばにくるこいつを俺は直視できなかった。
もいっかい田島の顔を見たらいつもの田島で…。

帰り道。
気が気じゃない。
ななが田島に許した行為が俺には許せなかった。

知ってる。
お前がいつもそうなのは知ってる。

でも。



俺はお前のなんなんだよ。

握る手に力が入る。
こみ上げる感情を、俺は今こいつに…。



…なんで、だと?


そんなの、
…そんなのてめーが一番知ってんだろうが!







「…っあ」



あ、イかした?

少し冷静になってななを見下ろすと、泣きながら、脱力して浅く息づいていた。

俺が中途半端にはいだ制服とか、必死で抵抗するとことか、ここが屋上だとか。
いつもと違うシチュエーションが後押してんのか知んねーけど俺に止めてやる気はさらさらなかった。






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