なんで、だと? 泣いてるこいつを見てさらに腹がたった。 なんでなにもわからないんだ。 なんで気づかないんだ。 ああ、知ってるこれ、すげーダサい感情。 誰かにぶつけるなんて俺らしくないからずっと溜めてきたけど、 でも、今俺は。 フラッシュバックしたのはあの日の夕方。 一組の教室にななを迎えにいったとき、真っ赤な夕日の中でお前は田島の腕の中で笑ってた。 田島はともかくお前が馬鹿なのは知ってる。華奢で無防備で人の悪意に気づかない。 …男の下心にも気づかない。 「俺ななちょー好き!」 「あはは。わたしもだよ」 別にこんなの初めてのことじゃない。 なながクラスの奴に借り物したついでにメアドもらってたり、明らかにわざとぶつかってきた男子に必死で謝ってたり。 でもだからって、なあ。 お前、自分が天然だからなにも知らなくていいと思ってんのか? 何も知らないから、そんな簡単に笑ってもいいと思ってんのか? 腕の力をこめたのか、ななが苦しいよ、たじまくん、とつぶやいた。 二人を睨み付けてたら、田島と目が合って少し動揺した。 さらに眉間にしわを寄せて強くにらんだら、 色のない瞳で田島が笑った。 「は?」 俺は思わず声がでた。 田島の視線を追ってななが俺に気づく。 「あ!あべくん!待ってたよ」 帰ろう、と笑顔で俺のそばにくるこいつを俺は直視できなかった。 もいっかい田島の顔を見たらいつもの田島で…。 帰り道。 気が気じゃない。 ななが田島に許した行為が俺には許せなかった。 知ってる。 お前がいつもそうなのは知ってる。 でも。 俺はお前のなんなんだよ。 握る手に力が入る。 こみ上げる感情を、俺は今こいつに…。 …なんで、だと? そんなの、 …そんなのてめーが一番知ってんだろうが! 「…っあ」 あ、イかした? 少し冷静になってななを見下ろすと、泣きながら、脱力して浅く息づいていた。 俺が中途半端にはいだ制服とか、必死で抵抗するとことか、ここが屋上だとか。 いつもと違うシチュエーションが後押してんのか知んねーけど俺に止めてやる気はさらさらなかった。 ` |