招かれ慣れた彼女の部屋を物色していたら、クローゼットに発見があった。 意外すぎる。 何故かそこには木製のバットと少し痛んだグローブがあった。 明らかに子供用だったけど、バットは傷だらけでグローブはよく手入れされていた。 「なあ」 「うん?」 「これ」 それのある方を指で指して、ななを見たら、明らかに表情が明るくなった。 明るくなって、曇った。(え、なんで) 曇ったってゆうか、しまったって感じか? 「なに?ガキの頃仲良かった奴からもらったとか?」 自分の思考回路が嫌になった。 話しにくそうにもじもじしているこいつを見てるとイライラして、小さくため息。 変な空気になって、変な沈黙。 うん。こいつがモノ大事にする奴なのは知ってる。思い出を大事にするのも知ってる。 つまり、このバットとグローブに関わった奴らがすごく大事なんだろうなとか今目の前にいるこいつは俺のぜんぜん知らない時間の中に引き戻されてるんだろうとか思ったら、すごく不安になった。 不機嫌全開で、その辺にあった雑誌を手にとって、出された茶を口にする。 いつもなら沈黙はなんでもない。俺たち二人して口数少ないから。 和やかっつーかまったりっつーかお互いマイペースな空間で、たまに俺が話かける、みたいな。 でも今俺は、見えないものへの不安がぐるぐる回っていて、このへんな沈黙を打破すべくこいつに声をかけられなかった。 「違うよ」 「は?」 「ぁ、あのね、おじいちゃんに貰ったの」 顔を上げたら、泣きそうに笑っていた。 お父さんお母さんが夏休みとか家にいないとき、よくおじいちゃんちに預けられてたの。でね、おじいちゃんシニアソフトボールしてたからわたしそれ、ずっと見てて。 あ、高校で教師してるときは野球部の顧問だったんだって。 それで、かってもらったの。 それからいっぱい、おじいちゃんとキャッチボールしたなぁ。 あとで気づいたんだけど、いとこのお兄ちゃんたちはみんなお揃いのバットとグローブもらってた。 え、なんでお前も?て言われちゃったけど、わたしも仲間に入れてもらえたんだよ。 宿題してお昼寝して海に行って、公園行ってからお風呂、の毎日だったな。 懐かしそうに笑うななが、言葉をきった。 ななは笑った。 でもなんかつくり笑いっぽいようにもみえなくない。 つか泣きそう。我慢してる。 そうか、泣きそうなの我慢してんのか。 「えへへ、いっぱいしゃべっちゃったね」 両手で自分の頬をつつんでうつむいた。 耳ふさいでるようにみえるな。 「そんなしゃべるの、めずらしいな」 つか初めてじゃね? 「うん、自分でもびっくりだよ。あはは。この話したの、あべくんが初めてだー」 おじいちゃんのこと話そうとすると泣きそうになっちゃうから、とななはまた笑った。 さっきまでの俺の不機嫌は吹っ飛んでいた。 あと、少しの罪悪感。 「お前の話、聞けて良かった」 なな、こういう関係になってもほとんど自分のこと話さなかったから。(つかもとが口数少なすぎ) ま、俺も自分のこと話す訳じゃねーけど、聞けたのは素直に良かったと思う。 「今度、どっかにキャッチボールしにいこう。どんだけ下手が見てやるよ」 「あべくん顔が怖いよ」 もとがこうなんだよ、と俺たちは笑いあった。 |