俺とさきの関係は、母親どうしの仲から始まる。つまり、生まれる前から遺伝子は知り合いだったっつーかなんつーか。俺のお袋がさきのおばさんを家に招いたり、さきのおばさんが俺のお袋を招いたり、したら自然と俺とさきは一緒に遊ぶようになって。ときにはお互いにもっと遊びたいとだだをこねたもんだった。 「まださきちゃんと遊びたい!」 「ずっと一緒にいたい!!!」 やー。俺も、子供だったんだって。 「あずさーっくす!!」 訳の分からん奇声を上げて、俺のベットに飛び込むさき。服装はラフな短パンTシャツで、その、たまにパンツとかへそとか見えて…。後ろ手にドアを閉めながら、ため息が出た。気持ちよさそうに寝そべって脚をパタパタさせながらその辺にある野球雑誌を引き寄せる。 「うほっ、いいおしりだ!」 女子からぬ発言をしながらさきが開いたのは、読売ジャイアントの正捕手のページ。最近はホント、野球選手の写真集まで出るような時代で…その選手も見開き2ページ、うまいことカメラにおさまって白い歯をちらつかせていた。床に腰を下ろして、まだ湿った頭をタオルでなぜる。 俺が野球を始めた頃、時期も同じころだったか、さきも野球に興味をもった。さきのおやっさんも野球好きで、俺の試合とか、よく一緒に観に来てくれたりしてて。大声で名前呼ばれたりして、あん時はぶっちゃけ恥ずかしかったけど、打てたらどやぁて感じだったし。まあ嬉しかった。 中学が別々になっても、件の母親どおしの茶会は無くならず、俺の試合があったりなんだりで、顔を合わせてた。でも、やっぱ無邪気に触れあうような遊びはしなくなって。…少なくとも俺からは。もちろん年頃の気恥ずかしさもあったけど、実際はちょっと違う。 秋の夜長…ってどういう意味だっけ。まだ暑い。幾分乾いた頭をベッドに持たせかけるとさきが少ない髪をなぜてきた。いや、ハゲではない。さきは、五里刈りがガキのこらから大好きらしく。曰わく、シャリシャリして気持ちぃ!らしい。いや、かき氷ではない。小学生の時頭を自由に触らしていたせいかお腹擦って?とか背中で触らして!とか、なんだろう。頭への接触はさきの中で接触じゃあないらしい。 だんだん煩わしくなってさきの手をやんわり払うと普段はごねるのに、不自然な沈黙とため息。振り向いてみると寝っ転がったさきがぼんやり天井を見上げている。 「やっぱり…。マネジとか、やった方が…いいのかなー」 残暑厳しい秋の夜。俺は、幼なじみに作り笑い。いや、苦笑いでなく。残念ながら。 「まぁ…そら顔あわせる回数は増えるわな」 「よねー」 パラリ。 顔も目も合わせない、よくある会話。一方通行な想いはこぼれても、届きはしない。いっそこのままでいいとすら想う。 規則的な深い呼吸が聞こえてきて、俺は部屋を出て居間に向かう。 「あら、さきちゃん寝ちゃった?」 「うーん」 「クッションタオル巻いて使ってね」 「わーってます」 これもいつもながらだが、自室を占拠された俺は居間のソファーを使う。さきが遥達と一緒に寝ちまう時は良いんだが、俺たちはもう、小学生ではない。 寝転んで頭をなぜる。 |