振りに

□ライ麦畑で捕まえろ
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似てるんだ。だから閉じこめたくなった。


男と女は奇妙な関係だ。周りから察するにその矢印は、どちらからもどちらかへ伸びていないのである。最初は男からそこはかとなく女に好意が寄せられていて、女もそれに答えるように男に気づきそして2人は結ばれた。周囲から見ると彼の想いが叶い、それまでの彼の苛立った表情が和らいだ気さえする。2人はうまくいっていた。間違いなく、疑いようもなく、2人の関係は周囲のうらやむほどの「彼氏彼女の関係」だった。
いつからだろう。阿部とさきは奇妙な関係になった。それは2人が触れ合うほどに浮き彫りになる。不思議だ。知れば知るほどなにかがずれ始める。



「触っていいか?」



2人きりで過ごす何度目かの夜、阿部は初めてさきに伝えた。男の性をお前にぶつけていいかと。阿部なりに今まで手を出さずにいたのは彼なりの優しさなのか、今日も今日とて一応さきに了承を得ようとする。さきは触るとはどこをどこまで触るのかと戸惑ったが、断る理由もなくなんだかおかしくなって笑いながら頷いた。部活の彼を少し知るごとに自分に向けられる優しさがまぶしくなるのだ。





三度目の行為の最中、さきは違和感を感じる。その手つき、呼吸、見つめる目…。なにがおかしいのかわからない。気づいてしまえば毎度、えもいえぬ不安がさきの胸に降りてくるのだった。男性経験なぞなく阿部が初めてだった。だがだからこそ違和感を感じたのかもしれない。きつく抱かれる度に逞しくなる腕に胸を焼かれるようにときめき、自分の知らない努力をする阿部に少しの寂しさを覚えるのだった。ならばこの違和感は、自分の拙い焦燥なのかと不安を打ち消す。その繰り返しだ。わずかばかりの逢瀬は、阿部にとっては数少ない休みの日であると、さきは小さな胸に心得ていた。



チリも積もればなんとやら。だがチリはチリだ。阿部は知った。さきには少しクールな面がある。阿部の付き合ってみた彼女たちは会えないことを嘆く帰来があった。しかしさきはどうだ。嘆くどころか甘える頼るをしてこない。もともと阿部はそういうものを苦手としている自負がある。きっとさきはそれをよくよくわかっているのだ。撫でた白い身体は小さく震え、瞳を濡らし手を伸ばす。それだけで十分だ。なにより彼女は自分をわかってくれている。それでいい。もしお互いに耐えられなくなればきっと話し合えると、深く思い悩む必要はないと心に沈めていくのだった。



阿部はゆっくりとさきを寝かせる。阿部は首を責めるのが好きなのか、一度肩に顔を埋めるとしばらく離さない。さきは最初こそくすぐったいと首をふったが行為中どういう顔をしたらいいかわからない。抵抗したい気持ちもあったが甘くかみつかれ舌でなぜられれば、いつしかそれは普通になっていた。普通だと、さきもくすぐったさと気恥ずかしさに耐え受け止めた…ハズだった。違和感に気づくまでは。


「あべくん…」


名を呼んでも返事は首の薄皮に響き、目が合わされることはなかった。胸の奥底に沈殿するがごとく不安はつもり重なってゆくのだ。 重さに耐えきれずさきは打ち明けることにした。この不安が自分だけの中で膨らんで、うまくいっていたころを懐かしく感じてしまうほどに奇妙になってしまった関係が、自分だけでなく少なからず大切に思っていた相手までを傷つけてしまう前に。もうきっと、今しかないのだ。


「あのね…、みはしくんの…ことなんだけど…」


つぶやくように吐き出された声が耳に届いた瞬間、阿部の目は見開かれた。体を起こし2人の目がピタリと合う。身体の下でしっとりしたまつげを震わせて見上げてくる さきに、阿部は困惑の表情を隠せなかった。なぜ今三橋の名前が出てくるのだろう。なぜ、こんな時に。わかっていた。さきと自分の関係が酷く奇妙であることに。言葉などいらないなんて、それは問題の表面化を先送りするための言い訳にすぎなかった。なにがいけないのか、足りないのか。いや、それは阿部自身が一番よくわかっていた。


「るせーよ」


今度はさきの目が見開かれる番だった。首筋を這っていた阿部の唇が乱暴に重ねられたら。そこにいつもの優しさはなく歯のぶつかる音と強引に舌を吸われる痛みがさきを襲う。訳も分からず身を堅くしても阿部の舌は止まらず脱がされかけたワンピースを乱雑にたくし上げられる。膝を膝で開かれ、さきは初めて恐怖を感じた。両手で阿部のシャツを握りしめて押し返そうとすると阿部が唇を離した。やめてくれるのかと気を抜く暇もなく、腰まで上げられたワンピースはさきの胸の上までめくられてしまった。下着を隠そうと上半身をひねっても、阿部はここぞとばかりにブラのホックを器用に外してしまう。胸を覆うとしたさきの両手は阿部の力強い腕に捕らわれて、シーツに抑えつけられてしまった。


「や、やだ…やだあ!」


やっとこぼれた抵抗の声にも、阿部は無表情だった。そのまま首に甘く噛みついて鼻先で下着をおしどけて胸にかぶりつく。こわばったさきの身体も、意に反してか胸の頂はピンと主張し始めていた。白く柔らかな胸に顔をおしつけ阿部は酷く苦しそうに息をつく。ぺろりと淡い頂を転がしながら、己の右膝をさきの脚の付け根に擦り付ける。さきの身体が小さくはね、いやとつぶやいた。膝を閉じようと必死になっても阿部は許さなかった。ぎりりと腕がきしむ。不意に阿部の膝が抜かれ両脚を抱え込まれ体操座りでもするかのようにさきの両膝は折り込まれてしまう。するり、とのショーツが膝まで下げられた。そのままの体制でカチャリと金属音がする。さきは反射的に暴れるが身体を二つ折りにされたような体制で体重をかけられまともに手も動かせない。



「ひあああ」


阿部の漲りをのまだ充分に潤わされていない花びらにあてがわれ、さきは短く悲鳴を漏らした。首を振っても、涙を流しても、阿部は止まらない。無理矢理に沈み始めた想い人の熱を、さきは愛おしいと思えなかった。ただ恐ろしかった。この無言の獣のような男が、自分の知ってる阿部隆也とはどうしても思いがたかった。チリが、確信に変わっていく。
痛みが走る。慣らされていない秘部は阿部の形に沿うように押し広げられていく。すべてを埋め込み阿部はまた苦しそうに息をつき、ゆっくりと腰を動かしていく。


「なん、で…こんな…うあ」


身体の下で苦しげに涙を流すさきに阿部はやはり無言であった。かけた体重を緩め、膝裏をつかみ限界まで広げる。脚を霰もなく広げられても、さきにはもう抵抗の気力はなかった。律動はだんだんと速くなり、阿部の杭はさきの壁を擦り上げる。めちゃくちゃに腰を穿つかれさきは意識を飛ばし、阿部は奥に漲った熱を吐き出した。


見下ろした彼女は、やはりよく似ている。









ライ麦畑で捕まえろ





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