振りに

□吸い込んだ喉の音
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大学休講なって家で暇しててさきにメールしたらホロ酔ってるさきが来た。朝まで先輩と飲んでたらしい。いやこれホロっつか泥酔?いや歩いてここまできてるし、…大丈夫か?
部屋に入るなりベッドに倒れ込む。ねむいよぅとかすれた声で唸りながら俺の枕に鼻を埋める。まったくなんのために俺はお前を呼んだんだ。…呼んでないけど。一人暮らしの利点のひとつは彼女を気兼ねなく部屋に招けることだ。招いてないけど。
さきの靴を直して部屋に戻ると壁側をきっちり一人分あけて寝ていた。開けとくにしても何故壁側。入りづらいわと思いつつも、さきのよくわからん気遣いに壁側の隙間に滑り込む。枕を完全にとられているので自分の左腕に頭を乗っけてさきを見る。私服のまんま、俺のベッドに乗っかってるさきはなかなか珍しく思わず見入ってしまった。こんな酔って、変なヤツにどうにかされそうになったんじゃねぇかと想像したり。


「…さき」


ふいに、ホントに無意識に口からでた。頭とか撫でたいと思ったがその手はのびず、口が開いた。呼んでみたものの反応はあるわけもなく返ってきたのは健やかな寝息だけ。うつぶせで苦しくないんだろうかと今度こそ髪を撫でる。もう一度口が開いてまた真横の彼女の名前がこぼれる。


「さき」



ぱち、とさきの目が開いた。ぎょっとして手にぴくんと力が入る。ねたふりかよ!なんなんだよ!と思う暇もなく、俺の右手はさきにとられていた。
丸い瞳が俺を見つめる。無表情というか、無感情というか。はっきりとした瞳なのにぜんぜんよめない。もそりと動きだしたかと思えば俺の胸んとこに頭をこつんとひっつける。早くなってる心臓を確かめられてるみたいだ。


「もっかい」


「…は」


「もっかい呼んで」


「なんで、」


「呼んでよぅ、うーい」


握られた手に「うぃうーい」と甘噛みされた。どうやらねたふりでなく酔っぱらっているらしい。鼻にかかった声とか妙に積極的な仕草がなんつーかなんとも、男心をくすぐる。頭以外離れてるのがもどかしくて肩とか腰とか引き寄せたくなんだけど、俺の指を口に入れたままよくわからんことを喋るこいつに阻まれて。ときどき力つきたように動かなくなったり思いついたように俺に触れてくるさきに、しばらく自由にさせていた。俺の指そんなうまいか、はは。ふやけさせんなよな。つかお前実は噛み癖持ちか。


「ひょっ」


まぬけなこえがでた。いきなり両手で顔を挟まれて睨み上げられる。俺、なんかしましたか?頬の肉を噛みそうで口は動かず、睨む瞳に反論も身動きも出来なかった。そーこーしてたらさきの口がぱくりと、俺の口を喰らった。


「!」


「ふ、んぅ」


ぢゅぅぅうとえげつない音たてながら唇を吸われる。時折漏らされる甘い…酒臭い吐息に身を引こうとしたら壁に肩があたって動けなかった。…まさか、もしかして、最初から、俺、喰われる予定でした、か?つかこんなネツレツなキスさきからされたことないよな。動物みたいだ。やっぱ飲み会でなんかあった?すげぇ、さきこんな、こんなに、


「ぅでよ」


「はっ」


「呼ぉんれ」


「む、ぐ」


吸いながら喋られて唇が切れないか冷や冷やした。耳に集中してみたら名前呼んで、と口と口の間から音がした。いや呼ぶもなにも口ふさいでるのお前なんですけど。積極的すぎてけっこうヤバいんですけど。
混乱しすぎてしどろもどろに抵抗してたらさきの目から涙が一筋…うわあああ。俺は一瞬固まってさきの両手首をつかんで押し返した。唇は離してやらずに体重をかけて動けないようにのしかかる。さきはされるがままに下敷きになりぎゅ、と枕をつかむ。「はあっ」と唇を離して見下ろすと俺の腕の間で目にいっぱい涙をためて口を唾液でべしょべしょに濡らして俺を見上げるさき。おそらく俺の口はもっと酷いことになっているだろう。垂れてる。Tシャツで拭ってさきの弱いとこ、耳に噛みついた。


「ふあ!」


「さきさきさきさき、さき」


いくらでも呼んでやるよ減るもんじゃなし。お前が望むなら何回だって。ぺろりと絡みつくように繰り返して、吸い付いて。俺は決壊した濁流に飲み込まれてった。











吸飲




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