振りに

□僕の腕の中で育つ
1ページ/1ページ






ついさっき降り始めた雨音と余裕のない呼吸が耳元を侵す。試合の熱が引ききってないのかな、花井くんのからだはとっても熱かった。アンダーもユニフォームズボンもそのままに花井くんのベッドの上で抱きしめられて。めずしいな、花井くんいつもだったら汗とか気にするのに。わたしは…花井くんの汗なら全然平気だけれど。いつもなら考えられないような荒々しい手付きで、少しだけきつくからだをおさえつけられてて……。




「は…っ」




花井くんどうしの?と聞くのさえ躊躇われた。首に当たる湿った熱い舌がぺろりと這う。わたし、こうなると思ってなかったから…しょっぱくないだろうか。ああ、運動した後だからきっと塩分すごい欲しいみたいな!…ううーん。ふとかち合った瞳と瞳。いつもこういうことをするときの花井くんの優しい目じゃなくて、ギラギラしててあと、なんか泣きそうな、怒ってるような目だった。花井くんは言いたいことがあるとわりとちゃんと言ってくれて話し合ってくれて、こんな感情を押し殺したような表情をするような人ではなく…。ん?もしかしてわたし今、新しい花井梓を目の当たりにしているのだろうか。
花井くんのかたい指先がわたしの胸に触れた。いつのまにか下着はTシャツと一緒に捲り上げられて胸が露出している。寒い。と思う暇もなく熱い息がわたしの肌をくすぐった。さき、さきと、何度も名前を呼ばれながらキツい手付きで胸をぐにゃりと変形させられる。鈍い痛みをやり過ごすも歯を立てられれば慣れないからだはちいさく悲鳴を上げた。
ユニフォームの上からでも解るくらい堅くて発達した胸板に抵抗のシワをひく。花井くんは気にもとめずにその性急な愛撫を下へ、下へ…いやいやいや待って待って!花井くんがわたしのおへそをぺろりとなぞった瞬間、わたしはたまらず腹筋と右手で上半身を起こす。ぴたりと動きを止めた花井くんがわたしを上目遣いでじとりと見る。なんだかほんとに誰だ君は!


「はないくん、何かあったの…?」


瞬間、ぽたりと花井くんのほっぺに水が垂れた。…ぐぁっ真面目な質問してるのにわたしったら鼻水!?と顔に手のひらをかぶせたら、それは鼻から出たものではなく目からあふれたものだった。


「あ、あれ」


「……っ」


拭っても拭っても止まらない水に花井くんは身体を起こしてわたしの顔をのぞき込んでくる。顔を見られたくなくて両手で覆って下を向こうとしたら首の後ろを大きな手のひらに支えられて、瞼にキスをされた。優しいキスだった。きっと花井くんは嫌なことがあってむしゃくしゃしててさっきみたいな、噛みつくように触れてきたんだと思うわけですよ。わたし出来ればそれを受け止めたいじゃないですか。彼女として、おこがましいですが花井くんを慰めたいじゃないですか。なのにこんな、なんでわたしがこんな風にないてるんだろう。わたしのばかちん。


「さき、ごめん。怖かったか?」


あぁ、もう。さらには謝らせてしまったよ。情けなくなってまた涙がこぼれる。顔を背けようと花井くんから離れようとベッドに手をついたら脇に手を回され胡座をかいた花井くんの膝の上に乗せられてしまった。


「ごめん、…ごめん」


優しく優しく背中を撫でられて少しずつ力が抜けていく。背けた顔も手で引き寄せられて広い肩に右頬を預けてしまう。鼻がすんすんする。
支えるようにまわされた腕は夏よりずっと逞しくなっていた。新しい傷も増えた。きっと身体についてる傷だけじゃなくて、どうやったら部員同士がうまくいくか、練習したいとか、勝ちたいってみんなで思えるか、一生懸命考えてるんだろうな。ぜんぶぜんぶ、花井くんが頑張ってる証…。わたしはどれくらい見つめていけるだろう。頑張ってるこの人をどれくらい支えられるだろう。自分ですら持て余してるのに、大切な人の力になんてなれるのかな。いない方が花井くん楽なんじゃないかな。でもこんな好きなのに離れるとか、出来ません。そんな勇気ありません。
これまで何度もした押し問答がまたあふれてくる。こんなことで、花井くんの前で泣くなんて。


「つまんないミスした」


花井くんの首筋に顔を埋めていて、表情はわからなかった。


「やっぱさ、俺部活好きなんだよ。だからきっちり、なんでもかんでもうまくいきたいなーと思うわけだよ」


ドキドキした。友達の彼氏さんもそうだけど普段あんまり部活の話してくれない花井くんがめずらしく、1人ごちるようにつぶやく。ナイフみたいな緊張感があってシャツを無意識に握りしめてしまった。その手をやんわりと捕まれて花井くんのほっぺにくっつけられる。


「…あったけ」


俺の方が冷たいわ、と恥ずかしそうに苦笑する花井くんをみて、涙も止まってしまった。泣いてしまったのが恥ずかしくて花井くんにぎゅううと抱きついたら、ぎゅっと抱きしめ返されて「 さきに八つ当たりしました、ごめんなさい 」とちょっと切羽詰まった声が聞こえた。「なんとなくわかっていたのですが泣いてしまってごめんなさい」とわたしもたまらず返した。照れと照れの応酬。こんな初々しい感じ、なんだか久しぶりだな。そんなことを考えていたらなんだか胸が甘く痛む。さっきまでの不安はどこかに行ってしまって、ただただ、わたしをきつく抱きしめるこの人が愛しかった。


「えっと、つづき…しますか?」


「は」


思わず身体を離す。わ、わたしはなんつーことを口走ってしまったのだろうか! 乳丸出しのかっこうも忘れて花井くんの膝の上でなんつーふらちな!!!どうしようどうしよう安心しすぎだわたし!!あ、なんかまた泣けてきた。外は雨、わたしは冷や汗。恥ずかしい。せっかくの甘い空気をぶっこわしてしまった。なんだかもう彼女としてと言うか女の子としてあかん感じになってるぞ。


「ご、ごめ」

「 さきてさ、なんつか、変わったよな 」


そ!そうかな!?ってゆうかへ、返答がそれだと不安になります梓くん!!変わったの?わたしそんなに変わったかな?恥ずかしくてほっぺを両手で包むと花井くんはぷ、と笑った。な、なんでわらうの。


「わり」

「わたし全然わかんないけども!もしわたしが変わったなら、それは花井くんのこと好きになっちゃったからだよ!」


あっつい顔で花井くんにガンぶつけたら、花井くんもぼ、と赤くなった。やーいたこたこ!恥ずかしさと照れくささでもう頭意味分からん。今ならわたしなんでもできる気がする。失うものがない。あ、いや、なんか絶賛花井くんの持つわたしのイメージが崩れているような気はしますけど。だってそれはもともとの元凶花井くんな訳で、だって…もう…。
しばらく、会話の糸口が見つからずお互いだまーって。真っ赤になった花井くんの目が少し潤んで見えた。薄暗い花井くんの部屋にいつものわたしたちが戻ってくる。冷静になった指先で、花井くんの顔を引き寄せた。














きみまでのこの距離、1oすらもどかしくて。
喉が乾いたようにきみを体内へ。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ