広瀬と田島が付き合い始めたらしい。 面白くなかった。正直面白くなかった。広瀬はもともと俺の方が仲良くて、それがきっかけで部活観にくるようになって。そんで…田島と出会わせちまった。 校内でもまあまあ可愛い広瀬が見に来てあいつが反応しないわけない、ってよくわかってたんだが…こうも簡単にとられるとは思ってもなくて。俺がもうちょっと押しの強い男だったらよかったんだろうか…。 元来た道をあるく、夜道。 アイツらの所為とか考えたくもないが、水谷に貸していた教科書を部室に忘れた。部活んときに返すなっつー話だ。 ドアを開けようとして気づく。…鍵あいてる? 「ぅあっ…だめ、も、」 ……最悪だ。 俺の直感外れてくれ。なにしてんだてめぇら部室だぞ部室!つかんでひねったドアノブを離すか離さないか迷った。このドアを開けてどうするんだ俺。透明人間のつもりでロッカー開けて教科書もって帰るのか?…気まずすぎだろ!!明日からどうしろっつの!?いや待てよ女の方はもしかしたらもしかしたら違う奴かもしれない。こんなとこでアイツが受け入れるはずが…ってどの道すげぇ気まずいわ!! 一人つっこみしてるうちに女の声が抑えられなくなってきていた。まて、よく考えろ。ここで俺が見逃したら田島のやつ味しめてまたやっかもしれねー。それってどうなんだ?しゅ、主将としてどーなんだよ俺! 「…くそ」 意を決して、ドアを開けた。闇に吸い込まれる感覚って、きっとこんな感じなんじゃないだろうか… 「…あ、花井ー」 後悔した。 少し乱れた呼吸で田島が振り向く。あ、はないーじゃねぇよ。と、頭で「二人」を凝視しそうになんのを堪えようとした。しかし開けたとたんに全身を襲った熱気と鼻をさす匂いに、ぐらりと視界が歪んだ。 外からの明かりでうっすらと輪郭をもつ部室に、上半身裸の田島とここにいて欲しくなかった俺の…、…女友達。付き合ってるんだからこういった行為はすんだろなとは思ったが、こんな形で見せつけられるなんて。酷すぎだろ。 まさにAV、と言った感じだった。スカートとパンツはいてないのにブラウスとソックスとローファーが中途半端に、汗ばんでくたりとした身体に引っかかってて。 瞬間、身体が熱くなる気がした。思わず広瀬から目をそらして「なにやってんだよお前ら」とやっと吐き出した。ベルトの金属音と立ち上がる気配。田島、俺お前が憎い。明日からお前とキャッチボール出来ねぇかもしんねぇ。つーか俺明日熱出んじゃねーの? 「はない」 不意に名前を呼ばれて、動きだそうとしていた身体が再び硬直した。やばいやばいやばいぞ。コイツなんつー声だよ男なのにどーやったらそんなヤバい声だせるんだよつーか田島の声ヤバいって思っちまってる俺がやばいわばかなのか!? 硬直してたら、いつの間にか田島に腕をつかまれて引っ張り込まれていた。踏ん張れば大したことない力だった。いかんせん足に力が入らない。な、さ、け、な、い。そのまま俺は部室に倒れ込んでしまった。 |