振りに

□倒せないよ
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がっつり密着中です。俺のベッドの上、倒れ込んでこそいないもののさきの腰に俺の手が、俺の首にさきの手が、しっかりとまわっている。なんつーかこの後どうなんのかむらむら想像したいんだがなにぶんさきがそんな雰囲気でなく、ただ引っ付きたいから引っ付いている状態なわけで。付き合いはじめの頃はこの「ただくっつきたい」という女心がわからず理性と戦いっぱなしだった。うん。自身に成長を感じる。



「うわぁぁぁぁあ」



「なにもしてないから微妙に叫ぶな」




これもいつもどおりのつっこみである。「今日はどうしたんだよ」と促してやればさきは情けない声で最近の失敗やらなんやらを報告し始める。いわばグチとゆうか悩み相談とゆうか、そんな体勢だ。こんな抱きしめあった人生相談などただのコメディでしかない。阿部にうっかり言ってしまったら「だからお前は坊主なんだよ」。お前、巣山と俺に謝れ。つか日本の坊主高校生に謝れ。まあお前からしたらただの…ノロケなんだろうけど。阿部君、話聞いてくれてありがとう。
どうやら先日、友人に作ったクッキーが大失敗したらしい。



「たこ焼き粉でつくっちゃってたの…」


「だしがきいてそうだな」


「すごいきいてた…」



「味見しろよ」



「うわぁぁぁぁあ」



思い出すと「うわぁぁぁぁあ」になってしまうらしい。せめて相談内容がもっとこうシリアス…真剣なものだったらこの体勢もいささか救われたのではないか。小麦粉がたこ焼き粉ってそれはお前わざとなんじゃねえかさき。いっそ俺にこうやって抱きつきたいがための口実……、いや。さきにとっては真剣で真剣でしょうがないのだ。この小さな身体全身で俺にすがりたくなるほどに真剣なのだ。俺はそれがわかるようになった。引き続き、自身に成長を感じる。首に感じるさきの息づかいに、どうしょうもなくどうしょうもない気持ちになって、腕に力をこめた。








倒せないよ


 

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