振りに

□繋いでいて。
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栄口に優しくしよう




そんな空気が教室にあった。葬式から3ヶ月。暑さのせいだろうか。なんもかもにイラついた。優しくされれればされるほど惨めだった。皆の優しさを素直に受け取れない自分が露見しているような気がしていた。野球にも打ち込めず、かといってグレる度胸もなく。余裕のなさに苛立った。笑顔を作っても周りの奴が固まる。きっとまともな顔できてないんだろうな。




「栄口くん!」




隣のクラスの彼女がまた来た。あの日以来よく話すようになったというか、話しかけられるようになったというか。つまりそれは彼女も彼女なりに俺を励まそうとかって気を遣わせてるんだなって。窓から射す夕日が教室の反対側、入り口まで届いていた。オレンジ色が彼女の髪の毛を染める。




「今月は栄口くんの担当でしょっ!?出来てないよ!?」



教室が凍りついた。


気がした。



どうも、委員会の活動日誌がお気に召さなかったようである。先月から俺の当番だったのだが、たしかにあまり真面目に書いた記憶がない。周りの視線が痛い。彼女の俺に対する態度に戸惑うクラスメート達。くそ。ほっといて欲しい。なにかと理由をつけて学校を出ようかとも考えたが、彼女が先に行ってるね!と走り出してしまい、大きくため息をつく。放課後、彼女と一緒に居残りをする羽目になってしまった。







「去年はすごーく丁寧に書いてたのに」



委員会の準備室、書き直しをする俺の横で、夏服を揺らしながら彼女が怒ってるような、拗ねてるような声で言う。見慣れたはずの女子の夏服、彼女のだけは違って見える。なんでかな、てか今日の練習遅刻だな、完全に。嘆きつつ、思わぬ彼女との二人きりの時間に腕の力が入る。だめだ。早く切り上げないと。集中…。





「どうして?栄口くん、最近おかしいよね…」



甘い風が止んで、嫌な汗が背中を濡らした。彼女の言葉に俺は動けなくなってしまった。手の止まった俺に気付いた彼女は首を傾げ俺を見つめる。俺は日誌から目を離さぬまま、内から湧き上がるどす黒いなにかを感じてしまっていた。



「栄口くん…?」



「うるさい」




鈍感な彼女が許せなかった。わかっている、不安定なんだ今の自分は。
ガタンと立ち上がって彼女を見下すと無垢な瞳とぶつかった。なにもかもが、うっとおしい。感情が、彼女に切り刻まれるようだ。



「さか…ぇ、」


バシッ



日誌を彼女の足元に叩きつけ、荷物を持って準備室から飛び出した。足は迷いなく彼女から遠ざかるのに、踏みしめる廊下が砕けてバラバラになって、落下していくようだった。前に進んでるんじゃない。俺は落ちてるんだ。
最悪だ最悪だ。最悪だ。最悪だ最悪だ最悪だ。最低だ。終末だ。絶望だ。真っ逆さまで真っ暗だ。真っ暗、だ。




鈍感な彼女なんかより、自分が許せなかった。





繋いでいて



中2、夏


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