振りに

□繋いでいて。
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あれから数ヶ月、俺はまったく彼女と目を合わせられなかった。や、クラス違うし学校くると必ず顔見るわけじゃなかったけど、たまにある委員会で、彼女はあの日のことなんか無かったかのように振る舞うのだ。俺のことなんてどうでも良かったんだろうなとも思ったけど、やはり彼女は俺に声をかけようと勤めてくれるのだ。きっと、多分。俺の思い過ごしじゃなければ。
そんな彼女の優しい気遣いに、答えられない。自分が彼女に取った態度が腹立たしくてやれなかった。「うるさい」なんて。人に嫌われるような態度をとる度胸も無くて、そんな言葉…普段使わないのに。

委員会の調べもののため山田と彼女と俺の三人で図書室に行くことになった。山田は普段バカやっているくせに俺と彼女の微妙な空気をさっしてトイレだのなんだのでいなくなってしまった。彼女は普段どおり、まったくの普段どおりで。逆に俺はどんどん血の気が引くような、息がしにくくなるような感覚におそわれた。鉛を飲み込んでしまってから何日目だろう。彼女から声をかけられるたび鉛は重くなる。もうどういう顔をしていいかわからない。二人きりなんてなおさらだ。


「栄口くん」


広瀬さんがつぶやく。不意に目があってしまった。もの言いたげな目で俺をみてるのに、彼女の口はなにも語らず空気は張り詰めている。俺は目をそらすこともできず、この空気を取り払うこともできない。なにか自分の確信を抉られてしまうんじゃないかという恐怖が、汗と一緒にふきでる。



「…っ」



嗚咽は彼女のものか、俺のものか。確かめる間もなく俺の右手は彼女の両手に包まれていた。まっすぐな彼女の目は泣き出しそうに濡れているのに、強く激しい色がゆれている。息ができない。張りつめたのは俺の喉の方だった。






閃光が走る


中2、秋の終わり


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