母さんが死んだ。 春って、いろいろわくわくする季節じゃなかっただろうかと自分の記憶を探る。吐き気がした。俺の思い出の中にしか、もういない。頭がわれそうだ。 「おはよう…」 彼女に声をかけられたのは母さんが死んでから、初めて学校に行った日。午前中はどうしても授業に出れなくて午後から参加して。放課後の委員会に出た時だった。事情を知ってるクラスの奴とか担任とか、「無理すんなよ」と言ってくれたけど、できるだけ普段通りに過ごしたいんだと笑って見せた。 彼女は俺の家族がどうなったとか知ってるのか知らないのかいつもと変わらない優しい微笑みで俺を見る。そうだ。いつもと変わらない。俺が彼女の存在を知ったのは三ヶ月前だ。別に容姿端麗とかそういう訳じゃなかったけど男子の間ではなかなかに評判が良かった。同学年に彼女がいたことを一年半も知らなかったなんて、もったいないことをしてしまったと思っていた。 「…おはよう」 今は、そんな甘い思いは欠片もなかった。普段どおりになんて、穴があいて黒い水が溜まっている俺の身体にはとうてい無理な話だった。 「栄口くん、今年もよろしくね」 それでも彼女はまぶしかった。 君に恋するのは生まれ変わってからがいい 中2、春 |