振りに

□うたうよ。
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最終学年。中学最後の一年だ。終われば、高校生。中学までは小学校のやつらと一緒だったけど、終わればきっと、バラバラになる。自分が選んだ学校に、自分の努力で入るんだ。
みんなどう感じてるんだろう。受験生って感じに焦っているんだろうか。それともこの春の日だまりを味わっているんだろうか。着慣れた制服のシャツに甘い風が、撫でるように吹き過ぎる。
ああ。新学期。これまた通い慣れた道を、俺は学校へと急ぐ。一年前とは違う。違うんだ。忘れるなんてことは出来ないし忘れるつもりもない。でも俺は、前に進める。




「…おはよう広瀬さん」



始業式の終わり、偶然にも広瀬さんを見つけた。声をかけると少しきょろりと首を振り、俺を見つけると一緒にいた女子になにか言って駆け寄ってきてくれた。そんな広瀬さんの姿に顔が緩んで緩んで…。




「もうすぐお昼なのにおはようって、なんか不思議だねっ」




はわぁっとした。すごい…俺、幸せ。女子に声かけるのにこんなに緊張するんだな。
にこにこしてる広瀬さんを凝視しないようにするのが難しかった。なのに広瀬さん、俺に向かって笑うんだ。一年前と変わらない優しい笑顔で。



「不思議って…前広瀬さんも委員会の時に俺におはようって言ったよね」



覚えてる?と聴いたら広瀬さんがきょとんと俺を見つめる。やっぱり、女子の中では全然可愛い部類に入るしなんといってもこの性格である。高校生になったらもっともっと可愛くなるだろうななんて想像したら、少し悔しくなった。




「…覚えてるよ」



はっと顔を上げたら広瀬さんと目があった。少し熱を持った瞳が俺を見据えていた。困ったような、恥ずかしそうな笑顔だった。石化した。
広瀬さんの友達の声が聞こえて広瀬さんはまたねと俺に手をふった。見送る白いシャツは、春の光が反射してまぶしかった。
自分の胸の中に灯りかけていた甘い熱エネルギーが覚醒していくのを感じる。一年前、止まってしまった想いが動き出す。やっぱり君を好きになってしまった。苦しかった、すごく苦しかった。でももう後悔しない。








俺は、広瀬さんに、恋をしました。












うたうよ



中3、春

20110428


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