「はよーはないー、おめでと」 フェンスをくぐる時に声をかけてきたのは栄口だった。眠そうに笑って、俺に追いつきながらそう言った。気のいい奴とは栄口のためにあるような形容詞ではなかろうかと感じるのは、べつに今の言葉をもらったからではない。真面目とゆうかまめとゆうか、気遣いのできる彼らしい行為だった。 人間出来てんなぁと、よく感じる。しょっちゅう思う。 「あ、ああ。ありがと」 若干の気恥ずかしさを覚えながらも答える。昨日さんざん言われた言葉なのに。田島にはめちゃくちゃ絶叫された言葉なのに。改めて言われると、な。 阿部や田島も、こういった栄口の奥ゆかしい部分をもう少し勉強すればいいと思う。強く思う。一年前とは確かに違う、成長しているとは感じる。そんな瞬間は何度もあった。しかし今一歩なところも、まだまだ否めない。…奥ゆかしいって変か?ん? まああれだ。自分を棚に上げて揶揄するなら二人とも、頑固だ。 今日のメニュー分を確認していたら他の部員も揃ってきた。飛び交う祝いとからかいの言葉を貰いつつ、朝練が始まる。 少しだけ、胃が傾いてる気がした。 |