振り

□あずさのいちにち
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年をとると景色が違って見えるらしい。大人の感想だよなと思ってたが、俺は今まさにそれを味わっている。
というのも朝ドアをたたく音に起きたらいきなり遥と飛鳥に引きずられるように食卓に連れて行かれて、下に降りると親父とお袋と、いつもより賑やかな朝飯が待っていた。
賑やかどころじゃない。豪勢だった。いったい何事かと思ったが「お兄ちゃんおめでと!」と、最近なかなかに生意気になってきた二人の妹に言われて、今日が何の日だったか寝ぼけた頭が思い出した。
いつもなら着替えを済ませてつく朝の食卓に、いつもならもっと簡素な朝飯に、いつもなら俺より遅出の家族がそろう朝の風景だった。
なんだ?毎年の誕生日別に朝っぱらからこんなことしねーのに。
「今日お父さんも母さんも遅いし、そもそもあんたが遅いからさ。今やっちゃおうと思って」といつもと変わらない、朝を感じさせない声色でお袋が笑う。や、でも親父を起こす必要はなくないか?なんで朝?
そんなことを思いつつ祝ってもらってんのはありがたいので大人しく、朝にはキツい揚げ物その他もろもろを胃袋に納めた。
用意したわりに、親父たちはラップに収めていたのが面白かったが。
いつもより早い時間に起きたが目が覚めてしまえばいつもの朝で。見送りの言葉を眠そうに言う妹達を首だけ振り向いて短く答え家をでる。
いつもと変わらない朝なのに全然違う、違って見える景色だ。食ったものが違うからだろうか。起きた時間が早かっただろうか。

どっちでもあるような気がするがどっちでもないような気もするし、どっちでもいいような気もした。
つーか、もっと違う理由だよな。



「寒いな」



春っつっても陽気もうららかさもねぇ。まだ4月の朝だもんなあ。まあ夏でもこの時間帯に薄着はきついか。
まだまだ人気のない道を歩きながら、今何時だっけとなんとなく携帯を開く。
したら着信数が十件を越えてた。日付が変わった十分以内。ったくまめとゆうか。さすがに朝練を控える野球部の奴らかは着てなかったけど、そういえば昨日の放課後練習前、田島がでかい声で祝ってくれていた。それに便乗するように、他の部員も「おめでとー」と言ってくれた。


照れた。




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