■ 雑 文 ■

□mundo.
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目の前の景色が霞んでいく。
自分の存在が無くなっていく…。

身体を風が吹き抜ける。

僕は、最後まで人を悲しませて死ぬ。
なんて酷い人間。
また、あの子にも悲しい思いをさせてしまう。
やっと、再会できたのに。

『アンタが好き』

鬼の子と蔑まれてきた自分。
そんな自分が隣にいることを許してくれた。
こんな、自分を愛してくれた。
嬉しかった…。
だから、自分の犯した過ちのため。
世界を…、彼を滅ぼすわけにはいかなかった。
ごめんなさい。
君が、僕の世界だから。
だから、…ごめんなさい。
君に、別れも告げずに逝く事。
許してとは言いません。
恨んでくれて、いいんです。
ただ、君には生きていて欲しいから。
僕の我が侭なんです。

朱雀の繋がりよ、僕の我が侭を聞いてくれませんか?
最後に、ヒノエに、この言葉を…。

君の隣にいられて、僕は幸せだった。
だから、早く、君の隣に、僕のように幸せを感じてくれる人を…。


――ああ…、体が霧散する。





「…ッ?! どうしたヒノエ!」

急に驚いた九郎の声がした。
周りにいた仲間たちも、驚いたようにヒノエを見る。
本人は、なにを言っているのかという顔をして、仲間を見る。

「ヒノエ…、気付いてないのか?」

敦盛が自分の目元を指差す。
ヒノエがつられるように、自分の目元を触る。

「…は?」

涙が流れていた。
ヒノエの、緋色の瞳から。

「…止まんねぇ」

――繋がりが、切れた…?

瞬間、頭に愛しい人の声。

胸に空白が広がっていく感覚。
朱雀が鳴いている。
悲しみにくれて鳴いている。

アイツが…、消えた…?
やっと、一緒に、…隣にいる事が出来るようになったのに。

『ヒノエ、僕も…、君が好きですよ』

優しく、はにかんだ微笑みを浮べてくれた弁慶。
もう、触れる事も、話すことも出来ない。
こんなに愛しい奴と、もう会えない。
俺の全て、世界。

止め処なく涙が溢れる。
拭ったところで意味が無いほどに。
途端に、ヒノエが駆け出した。

勝手に決めるな。
そんな、遺言誰が聞くか!
俺だって、お前が隣にいて幸せだったんだ。
全部、全部、お前は勝手に決めるんだ。
俺を、おいて行くなよ。

「どこへ行くんだ、ヒノエ!」

譲が駆ける背中に向かって叫ぶ。
その問いにヒノエが叫び返した。

「知らねぇよ…ッ!」

ただ、光に導かれるように。
あの人が去った場所へ。




隣にいられて、幸せだった…

君が世界 俺の世界



END.
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