■ 雑 文 ■

□髪結
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ふらっと、ヒノエが弁慶の部屋を訪れた。

「これ、アンタにやるよ」
そう言ってヒノエは懐から掌ほどの小さな包みを取出し、弁慶にわたす。

「何ですか、これは?」

弁慶が首を傾げる。
そんな愛らしい弁慶の様子をみて、ヒノエが優しく微笑む。

「開けてみなよ」

ヒノエの言葉に弁慶は頷き、包みを開ける。

「あ…、これは」

包みから、出てきたのは折り畳まれた細長い紐。

「綺麗な紅だろ、おまえの髪に似合うと思ってね」

ヒノエが、弁慶の髪を一房、すくいとるように優しく掴み。
紐をとり、髪にあわせる。

「思ったとおり、良く似合う」
「…ヒノエ」

弁慶が恥ずかしそうに、はにかんで微笑む。

「ありがとうございます」
「姫君に喜んでもらえるのなら、何でも手に入れてやるよ」

ヒノエの言葉に、弁慶は軽く眉をひそめる。

「やめて下さい。僕は姫なんかじゃないですよ!」
「今は、姫だろ、身体。」

片目をつぶって弁慶に笑いかける。
そうなのだ、弁慶の性別が女性になってから、もう数週間、一向に戻る気配が無い。
女性になり、前にも増して艶めかしくなった弁慶に、周りの皆が、過剰に身を心配するようになってしまった。
ヒノエも、その一人。
おかげで、弁慶への態度は、本当の女性に対する態度と変わらない。

「元々、僕は男です」
「知ってる…、これ、つけてやるよ」

ヒノエが弁慶の背後に周り、髪を結っていた紐を外す。
瞬間、柔らかい髪が、ふわりと舞う。
妙に優し過ぎるこの甥がむず痒い。
弁慶は、最近つくづく思っている。
溜息とともに、その疑問を問いかける。

「…僕が、…この身体になってから、…君は随分、優しくなりましたね?」
「ん…、そうかい? …ほら、頭動かさないで、じっとして」

自覚が無い?
それとも、前にこんな事があっただろうか?
ヒノエは気にせず、弁慶の髪を器用にまとめる。
考え事に、弁慶が少し首を傾ける。

「あ、コラ。 また動いたら、俺と同じみつあみにするよ」

そのヒノエの冗談に、さすがに弁慶は苦笑した。

「…ふふ、それは、よして下さいね」

ヒノエの行動、表情が、どれも優しさで満ちていて、この間まで突っかかってきていた彼と同一人物とは思えない。

「ほら、できた」

きゅっと言う、切れのいい音とともに、ヒノエの指が髪から離れる。

「ありがとう、ヒノエ」

弁慶が首だけ動かし、肩越しに礼を言う。

「礼…ね? …こっちのほうが嬉しいかな」
「え?……っんぅ!」

ふいに、引き寄せられ、肩越しの口付け。
弁慶の唇を、ヒノエの舌が押し開くようになぞる。
薄く口が開かれれば、そこから入れた舌を深く絡める。

「ふ…、は…」
「んん…、や。 苦し…」

少し上向きに顎をつかまれた弁慶の口からは、お互いの混ざり合った唾液が零れる。
瞳が潤み、弁慶の視界が歪んだ。
深い口付けに、二人の頬が蒸気して紅く染まる。
口を放し、ヒノエは弁慶を自分の方に身体ごと向けさせる。

「は…、はあ…、ヒノ…エ?」

荒く息を乱す弁慶。
ヒノエが今度は弁慶の頬、目元へと順に口付ける。

「悪い、苦しかったろ?」
「ホントですよ…、ケホッ。 苦しかった」

突然の出来事に、弁慶はいたって普通に言葉を返してしまう。
ヒノエが悪戯好きな少年の顔で言う。

「でもさ、アンタにあげたの結構な代物なんだぜ。 もっと…、貰っても良いところだろう?」

少年の純真な瞳から、青年の妖しい流し目に。

「…もっと…って…!」

弁慶の顔がカッと赤くなり、ヒノエから距離をおこうと後ろへ後ずさろうとする。
それを見て、ヒノエが逃がすものかと、抱きつき、弁慶の豊満な胸を鷲掴む。
ヒッと弁慶が短い悲鳴を漏らし、身をよじる。
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