■ 雑 文 ■

□年の差の恋に10のお題
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1 子ども扱いしてんじゃねぇよ!


「お久しぶりですね、ヒノエ」

久々に再開した愛しい想い人は、昔と同じ優しい微笑みと物腰をして、ヒノエの頭を撫でた。
幼少のヒノエにしていたように、14歳のヒノエの頭を撫でた。
想い人、幼名「鬼若」、もとい武蔵坊弁慶は。

あまりに自然にするものだから、振り払うことも出来なかった。



熊野本宮から大分離れた林の中、手頃な木に寄りかかりヒノエは考え耽っていた。

さきほどの、弁慶の行動に。

もう、自分も成長して、体格も大分良くなったと思い始めてきた所の弁慶のあの行動。
おまけに撫で終えた後に、あっけにとられている自分を見て、小さい子の機嫌を伺うように少し屈んで視線を合わせ、そして、これまた極上の笑みを浮べてくれたものだから、ついおもいっきり顔を逸らして逃げ出してきてしまった。
赤面した顔を見られてしまっただろうか?
駆け出した自分の背中に、その場に調度居あわせた湛快の馬鹿笑いが届いた。
ムッとしたところで、言い返しに戻れるはずも無く、更に走る速度を上げた。
きっと、弁慶は嫌われたのかなと苦笑いでもしていただろう。

普通の可愛い片思いな関係なら、久しい人に会った態度が変わらないというのは嬉しい事。
けれども生憎、ヒノエと弁慶の関係はそんな可愛いものではない。
笑うだけじゃ済まされない。
一方的な片思い?
ヒノエは弁慶の甥、弁慶はヒノエの叔父。
甥と叔父の禁忌の恋?
年齢差は八つ。
そのおかげ、子供扱い。
まったくもって三重苦な事この上ない。

弁慶と会えなかった、ここ数年、ヒノエは色んな娘と遊んだ。
けれども、結局想いは、昔からちょくちょくと比叡山から熊野へと帰ってきて、幼い自分の面倒をみてくれた”おねえちゃん”へと馳せる。


―――手櫛ですけば、柔らかく光を照り返した蜂蜜色の髪。

――抱きつけば、舞う甘い香り。

―微笑んだ瞬間、うっすらと染めた頬。


「…あー、こりゃ重症だな」

驚いてしまう、ここまで自分が一途で純情だったとは…。

「アイツの事しか、考えらんないなんて…」

…そろそろキッチリ踏ん切りつけて行動でしめそうか。

まず、どうしようか?
うん、この一言は、絶対言ってやろう。

「子ども扱いしてんじゃねえよ!」

足元にまで降り注ぐ優しい木漏れ日に、ヒノエは苦々しく目を細めた。



fin.
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