アイシ
□さようなら愛せなかったひと
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長いスカート丈のセーラー服でバイクを飛ばしていたあの頃、悪魔と呼ばれるあいつに出会った。
私達も私達の周りもほとんどがアメフトバカで。セーラー服に袖を通すことが無くなってからも、あいつとは何かと関わってきた。
大切な存在だなんて言葉にすると反吐が出る。でも実際、あいつと離れるとなると、歯痒くやりきれない気持ちにもなるのだ。
「ルイと結婚する事にした。」
「‥へ〜。良かったな。」
いつも練習で走る河原の道。ちょくちょく顔を合わせるこいつに、今も偶然出会った。今の服装は練習着ではなくお互い私服だが。
「オメー家事とか出来んのか?せいぜい旦那、食中毒で救急車呼ばないようにな。」
「ふざけんなよヒル魔。言っとくけど、私料理プロだから。色んな系統制覇してっからね。」
「あっそ。そんなに言うんなら今度食わせろよ。」
「‥‥そんな事言って忘れるくせに。」
フン、と相づちでも返事でも無い声を出して、ヒル魔は足元の草を蹴った。何本かが宙を舞う。
「結婚、出来る歳なんだもんな。‥あん時もそうだったけどよ。」
「あん時?」
「初めて会った時。」
輝く夕日を真っ向から浴びる悪魔は、やたらとセンチメンタルに見えた。普通ならその不似合いに可笑しくなる所だが、今の私はその姿を静かに見つめる事しかできない。
「葉柱メグ。か。」
「な、なんだよ。」
「ケケ、まぁまぁ合ってんじゃねーか。」
バカにしたような要素も含めて笑う彼。下を向いて静かに笑う姿はどこか泣いているようにも見えた。
そんな事は絶対有り得ないのだが。でもきっと私と同じように感じているはず。どうしようもないやり切れなさを。
さようなら愛せなかったひと
END