題名(C)確かに恋だった

□噛み癖が直んないね
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今はアシスタントがいるから。別の部屋もゴチャゴチャしていて秋名さんを呼べるような環境ではないからと、外へ誘ってきたのは意外にも新妻さんの方だった。

今後一緒に漫画を作っていく上で今、新妻さんと話をしておきたい。

電話で済ませられるような事だったが、大事な用件ならば直接会ってするべきだと、彼はいつになく真面目な声で言ったのだ。





「しょーじきな所、描きたくないと思ってました‥。」
「ツマンナイつまんないツマーンナイですもん。」
「以前の+ナチュラルは、僕だけじゃなく読んでくれる人みーんなをドキドキさせてハラハラさせて、ブレーキ無しのジェットコースターに乗ってるみたいな。」
「そういう気持ちにさせてくれるストーリーだったのに、今は展開が見え透いてて読む気が失せます。」

注文したオレンジジュースに前のめりで顔を近付け、あまり行儀がよろしくない姿勢で拗ねた子供のように彼はボソボソ呟いた。
今の気持ちを聞かせてほしいという私の問いに、オブラートで包む事はせず率直に語ってくれる。
そして一息ついて「だからといって丸投げは出来ないですから‥。」と続けた。

「分かりました。‥ありがとうございます。ご迷惑おかけしますが、もっと勉強して頑張りますので今後もよろしくお願いします。」

一礼し、伝票をつかみ立ち上がる。
分かっていた事だが実際目の前で言われると、胸がざわめいてこの場に居られなくなる。認めたくないが、私は自分が思うよりも強い人間では無いようだ。
今や仕方なしに描いている彼はもう、私を必要としないのだろうか。

「用件は終わりです?ならこれから僕と映画に行きませんか?」
「!?」

よくあるコメディ番組のように、ズルリとコケそうになった。
くだらないと思っていたが、今なら気持ちが分かる。

「‥あの、新妻さん?あなたは何を言っているのですか?」
「イヤです?」
「えぇ嫌です。そもそもあなた、‥私の事を煩わしいと思ってるのでは無いですか?」
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