題名(C)確かに恋だった

□この言いようのない欠落
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※ネタバレ。
本誌展開がまったく別方向行ったので、チョロっと記しとくだけにします。

哲さんにきっぱり振られた岩瀬嬢。やる気が起きず、勝手にENDにした+ナチュラルの原案を新妻さん宅に持って行く。
新妻視点。




卵が孵化するシーン。主人公の瞳孔が開き、ミチミチと殻が剥がれ落ちる。
初めて光に当たったクチバシが変色しようとした時、トリップする音楽が不意に止まった。
愛用中のヘッドフォンが耳から離れたのだ。
後ろを向くと、2,3回顔を合わせた事があるだけの原作者が、ヘッドフォンを手に立っていた。

「呆れた人ですね。インターホンを鳴らしても気づかないし、鍵も開けっ放しだし。」

「秋名先生!何してるです?」

「続き、持ってきました。」

「おー!!ありがとです!」

なぜわざわざ来たのかとか、聞くべき事は置いといて、まずは常に気になっている彼女の文章に目を通す。毎回予想を裏切ってくれる内容に、まるで中毒患者のようだ。
興奮する気持ちのまま読み進めると、最終ページにはこれまでより上を行く裏切り。

「…なんです?コレ。」

「……。」

「何が『END』です?ふざけてるです?」

「いえ、本気です。最後ですし、直接渡しに来たんです。では今までありがとうございました。」

くるり。整った姿勢のまま初めと変わらず、彼女は静かに立ち去ろうとする。
引き止めて説得、いや、まずは話を引き出さなくては。酷いとは思ったが、立ち止まらせるために僕は予想できる核心を無遠慮に衝いた。

「私情なんて挟むからそーなるんです。せっか
くの才能を…何してるんですか。」

冷静な印象だった肩が大きく跳ね、振り向いた目には明らかに怒りが浮かんでいる。

「最低…。」

「秋名先生こそ。プロの自覚無いですか?」

なぜこんなに酷い事を、理由も聞かず吐けるのか。
ああそうか、僕も僕で頭に来てるんだ。
握る拳を震わせ、射抜くようだった彼女の瞳がきつく閉じられ、涙がこぼれた。

「…私が居なくなって、困るのはあなたでしょう?だったらなんとかしなさいよ。」

駄々をこねて、小さいその子はうずくまる。
どこへぶつけて良いか分からずに、こんな所まで来たんだろう。
僕はもう腹立たしさでなく、手を伸ばしたくなるような。疲弊しきった小鳥を拾った時のような気持ちになっていた。


END


岩瀬嬢はこんなに弱くなかったのねん。


20100625

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