〜the noble〜
『枢木スザク』が『死』んで、ルルーシュ皇帝が殺されてから、本当に久しぶりに、『ゼロ』では無い行動を取った。
しかも、まだ陽が高い。
何故かは自分でもよく分からない。
行政の方針もそれなりに落ち付いて、時間の様な物が出来たからというのもある。
フードを目深に被って外に出てみた。
少し肌寒い。
暦の上ではもう春だというのに。
そんな事さえ感じたのが久しぶりだ。
ゼロのスーツは身体を完全に覆う。
だからこそ、誰でも無い皆無の存在。
誰にも見付からないようにして、誰もいない場所へ。
ルルーシュ…。
8年前、侵略者の人質としての君達と出会って、俺は一番幸せな記憶を貰った。
何事にも屈しない心や、弱者を労る心、守りたいと思う心を教えられた。
そして俺は君達を守ろうとして、最悪な罪を犯した。
それから、罰としての『死』を望むようになってから7年が経ち、再び君達と出会った。
すると君はまた、新たな感情をくれた。
あの日から、生きながら死んでいたような自分の人生がまた鮮やかに彩られた気がした。
そして、あの失望。
綺麗だと信じていた君に裏切られた。
ギアスに汚れて綺麗じゃない君がどうしても容せなかった。
俺達は本当に不器用で、随分擦れ違って、…それでも最後に正面から向き合えた。
ギアスという名の願いを受け取って、今。
ユフィが特区日本設立を宣言した時、世界は少しだけ優しくなった。
君が死んだ時、世界はまた優しくなった。
自分は君達の遺志を継いで、またそれを望むナナリーと優しい世界を作り上げていく。
…ああ。
なんて尊い。
悲劇は幾つも起きてしまったけれど、それでもとても尊い。
『枢木スザク』に『死』を、そして『ゼロ』としての『生』を罰として、遺志を継ぐ事での赦しを与えてくれた君に、本当に感謝している。
俺はフードを外した。
…そうだったのか。
やはり少し肌寒い。
しかし肌を纏う風と光は確かに柔らかかった。
…ああ。
また春が巡ってきた。