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奥の、患者の為のベッドにそっと降ろされる。
なんだか妙に気恥ずかしい。
スザクがシャッ、と小気味の良い音を立てて淡い色のカーテンを引く。
仄明るく狭い空間になった。
「先生、良くなって…」
そう言ってスザクは優しく唇を落としてきた。
それを再び受け入れ、今度もそろそろ離れる頃かなんて思っていると、予想に反して唇を舐められる。
え…っ?
俺が驚いて声を上げそうになると、その隙を待っていたかの様に、スザクの舌がスルリと入り込んできた。
「ん…っんん……っ」
巧みに舌を絡め取られ、柔らかく擦り合わされる。
なんでこんなに…っ。
俺でさえこんな濃厚なキスは初めてだと言うのに…!
胸の奧がキュッと締まって、ふわふわする。
…とろけそうだ。
「んぅ……はっ…」
やっと唇が離れると、俺は必死で酸素を取り入れる。
「ガキの…くせに…っ」
そんな俺に引き換え、あれだけ激しいキスを仕掛けてきた張本人は余裕で構えている。
「だって、先生に良くなってもらいたくて…」
う……。
お前に仔犬みたいな瞳でそんな事を言われたら、怒れないじゃないか…。
「そうだ!俺、先生の事診察するねっ」
「は……?」
何か突拍子も無い事を言い出したかと思いきや、スザクは俺の白衣のボタンを外し始める。
「バカっ、やめろ…!何やってるんだっ、医者でもあるまいし…」
というか、逆じゃないか?普通…。
「大丈夫っ、俺先生の事いつも見てたからっ」
「それは今関係無いだろ…っ!」
スザクは俺の抵抗を物ともせずに、手際良くボタンを外していく。
さっきから何なんだ…っ!!
いたい気で、可愛いくて、純粋な生徒のはずなのに、これではまるで…!
…なあ、天然だろ?
天然なんだろう!?
あれよあれよという間に、終にスザクは俺の裸の胸を露にした。
「うわぁ……!綺麗だね…」
「バカっ、何言ってるんだ!!」
顔が、火を吹くんじゃないかという位に一気に熱を帯びる。
スザクは尚も抵抗する俺の両手首を片手で軽々と纏めてしまった。
悔しい事にびくともしない。
本来は隠す必要も無い場所だが、スザクの手によって、こんな心許無い状態にされ、まじまじと見つめられると、この上無く恥ずかしく感じる。
スザクが俺の胸に耳をかざす。
ふわふわの髪の毛が当たってくすぐったい。
「すごいドキドキしてる…」
当たり前だろう…っ!
と、スザクは俺の胸に細かく口付け始めた。
…いつ!誰が!お前にそんな診察の仕方を教えたっ!?
「…ぁ……っ」
スザクの唇が胸の先端を掠めて、思わず声を上げる。
「先生可愛い…っ」
…あぁ。
今やっと、その可愛い笑顔の端に、いたい気の無さを感じ取るのは、遅過ぎるだろうか。
それを発端として、スザクは舐めたり吸ったりと、舌を絡ませてくる。
敏感な所にスザクの舌が触れて、いやらしい動きをしているのかと思うと、それだけでおかしくなりそうだ。
触れられている場所を中心に甘い痺れが全身に広がる。
「ゃ……っんん…っ」
スザクに両手の自由を奪われた今、為す術も無く、自分の物とは信じ難い、甘ったるい声が漏れていく。
と、今更ながらハッと気付く。
「バカっ…ここ、学校…っ誰が来るか…!」
「来ないよ誰も。万が一来るような奴がいたら……………」
その根拠は何だ!
しかもその沈黙が恐いぞ!?
「俺は勤務中だ…っ!」
「…じゃあもし誰か来たら僕が代わりに仕事するから。先生体調悪いんだしさ」
スザクは渋々といった様子で提案してきた。
「その体調の悪い人間相手にお前は何をやってるんだ…!」
「もう診察じゃなくて治療かな?」
「は……?」
スザクは微かに微笑んで言った。
「この身体の熱、一回完全燃焼させなきゃ治らないでしょ?」
「……ばっか…」
俺が消え入りそうな声で呟くと、それを勝手に了承と解釈したのか、再び俺の胸に舌を絡ませ始めた。
伴って鎮まりかけて燻っていた俺の身体の芯も熱を帯びる。
「ふぁ…あ…っ」
いつの間にか自由になっていた腕も、力が抜けて動かす気が起きない。
「先生可愛い…声も、ここも全部…。もっと声聞かせて?」
…スザクは年下で、生徒で、俺が、俺の方が前に立って守って導いていく立場なのに…。
こんな…、こんな事されて、この様は…!
情けない…恥ずかし過ぎる…っ耐えられない…!
「ゃあ……スザク、…ぁっ……も…っ」
「もう、何…?もうここだけじゃ嫌?」
「違……っ!」
「えっ、うそ…泣かないで…!ごめん先生ごめん…っ!!」
スザクまでもが泣きそうな顔になって、俺の首に抱き付いてきた。
「俺は、先生に悲しい顔をさせたい訳じゃないんだ…」
「スザク…」
「先生に気持ちよくなってもらいたくて…。俺の、気持ちよくなかった…?」
スザクが涙目でこちらを見上げてきた。
…!…!!
…弱いんだ。
俺は、スザクの上目遣いとか、哀願とかに滅法弱いんだ…。
「…べ、別に……気持ちよくない訳、じゃ…」
…待て、俺は何を言わされて…!?
「嫌…?」
「………ゃじゃない……っ」
違……!
「じゃあ気持ちよくて、もっとされたいんだねっ?」
違……、俺は早くこいつを除けて、仕事に戻って……。
俺は小さくコクンと頷いた。
「………!」
スザクが無言で顔を真っ赤にさせる。
違……っ!!
俺は…
俺は……っ!
…俺のバカッ……!!