3

奥の、患者の為のベッドにそっと降ろされる。

なんだか妙に気恥ずかしい。

スザクがシャッ、と小気味の良い音を立てて淡い色のカーテンを引く。

仄明るく狭い空間になった。

「先生、良くなって…」

そう言ってスザクは優しく唇を落としてきた。

それを再び受け入れ、今度もそろそろ離れる頃かなんて思っていると、予想に反して唇を舐められる。

え…っ?

俺が驚いて声を上げそうになると、その隙を待っていたかの様に、スザクの舌がスルリと入り込んできた。

「ん…っんん……っ」

巧みに舌を絡め取られ、柔らかく擦り合わされる。


なんでこんなに…っ。

俺でさえこんな濃厚なキスは初めてだと言うのに…!

胸の奧がキュッと締まって、ふわふわする。

…とろけそうだ。


「んぅ……はっ…」

やっと唇が離れると、俺は必死で酸素を取り入れる。

「ガキの…くせに…っ」

そんな俺に引き換え、あれだけ激しいキスを仕掛けてきた張本人は余裕で構えている。

「だって、先生に良くなってもらいたくて…」

う……。

お前に仔犬みたいな瞳でそんな事を言われたら、怒れないじゃないか…。

「そうだ!俺、先生の事診察するねっ」

「は……?」

何か突拍子も無い事を言い出したかと思いきや、スザクは俺の白衣のボタンを外し始める。

「バカっ、やめろ…!何やってるんだっ、医者でもあるまいし…」

というか、逆じゃないか?普通…。

「大丈夫っ、俺先生の事いつも見てたからっ」

「それは今関係無いだろ…っ!」

スザクは俺の抵抗を物ともせずに、手際良くボタンを外していく。


さっきから何なんだ…っ!!

いたい気で、可愛いくて、純粋な生徒のはずなのに、これではまるで…!


…なあ、天然だろ?

天然なんだろう!?

あれよあれよという間に、終にスザクは俺の裸の胸を露にした。

「うわぁ……!綺麗だね…」

「バカっ、何言ってるんだ!!」

顔が、火を吹くんじゃないかという位に一気に熱を帯びる。

スザクは尚も抵抗する俺の両手首を片手で軽々と纏めてしまった。

悔しい事にびくともしない。

本来は隠す必要も無い場所だが、スザクの手によって、こんな心許無い状態にされ、まじまじと見つめられると、この上無く恥ずかしく感じる。


スザクが俺の胸に耳をかざす。

ふわふわの髪の毛が当たってくすぐったい。

「すごいドキドキしてる…」


当たり前だろう…っ!

と、スザクは俺の胸に細かく口付け始めた。



…いつ!誰が!お前にそんな診察の仕方を教えたっ!?

「…ぁ……っ」

スザクの唇が胸の先端を掠めて、思わず声を上げる。

「先生可愛い…っ」

…あぁ。

今やっと、その可愛い笑顔の端に、いたい気の無さを感じ取るのは、遅過ぎるだろうか。


それを発端として、スザクは舐めたり吸ったりと、舌を絡ませてくる。

敏感な所にスザクの舌が触れて、いやらしい動きをしているのかと思うと、それだけでおかしくなりそうだ。

触れられている場所を中心に甘い痺れが全身に広がる。

「ゃ……っんん…っ」


スザクに両手の自由を奪われた今、為す術も無く、自分の物とは信じ難い、甘ったるい声が漏れていく。


と、今更ながらハッと気付く。

「バカっ…ここ、学校…っ誰が来るか…!」

「来ないよ誰も。万が一来るような奴がいたら……………」

その根拠は何だ!

しかもその沈黙が恐いぞ!?

「俺は勤務中だ…っ!」

「…じゃあもし誰か来たら僕が代わりに仕事するから。先生体調悪いんだしさ」

スザクは渋々といった様子で提案してきた。

「その体調の悪い人間相手にお前は何をやってるんだ…!」

「もう診察じゃなくて治療かな?」

「は……?」

スザクは微かに微笑んで言った。

「この身体の熱、一回完全燃焼させなきゃ治らないでしょ?」

「……ばっか…」

俺が消え入りそうな声で呟くと、それを勝手に了承と解釈したのか、再び俺の胸に舌を絡ませ始めた。

伴って鎮まりかけて燻っていた俺の身体の芯も熱を帯びる。

「ふぁ…あ…っ」

いつの間にか自由になっていた腕も、力が抜けて動かす気が起きない。

「先生可愛い…声も、ここも全部…。もっと声聞かせて?」


…スザクは年下で、生徒で、俺が、俺の方が前に立って守って導いていく立場なのに…。

こんな…、こんな事されて、この様は…!


情けない…恥ずかし過ぎる…っ耐えられない…!

「ゃあ……スザク、…ぁっ……も…っ」

「もう、何…?もうここだけじゃ嫌?」

「違……っ!」

「えっ、うそ…泣かないで…!ごめん先生ごめん…っ!!」

スザクまでもが泣きそうな顔になって、俺の首に抱き付いてきた。

「俺は、先生に悲しい顔をさせたい訳じゃないんだ…」

「スザク…」

「先生に気持ちよくなってもらいたくて…。俺の、気持ちよくなかった…?」

スザクが涙目でこちらを見上げてきた。


…!…!!


…弱いんだ。

俺は、スザクの上目遣いとか、哀願とかに滅法弱いんだ…。


「…べ、別に……気持ちよくない訳、じゃ…」

…待て、俺は何を言わされて…!?

「嫌…?」


「………ゃじゃない……っ」


違……!

「じゃあ気持ちよくて、もっとされたいんだねっ?」

違……、俺は早くこいつを除けて、仕事に戻って……。



俺は小さくコクンと頷いた。

「………!」

スザクが無言で顔を真っ赤にさせる。

違……っ!!


俺は…

俺は……っ!


…俺のバカッ……!!

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