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雨、か。

もう梅雨かな。

梅雨になると洗濯物がなかなか乾かなくて困るんだよね…。

取り敢えず折り畳み傘持って来てて良かった。

…スザクは大丈夫かな、見かけてないけど…。

もし持ってなかったら貸してあげ…ってそれ相合傘…?

むっ、無理ぃ…っ!!

「ランペルージさん」

「うっ!?な、何?」

取り乱しているところに肩を掴まれ、わたわたと振り返る。

「俺、傘忘れちゃったんだけど…」

さして話した記憶も無い男子生徒はルルーシュの肩から名残惜しそうに手を離すと笑って告げてくる。

「……?」

わ、私にどうしろと…!?

男の視線は明らかにルルーシュの持つ折り畳み傘に注がれている。

「………」

「あっ、オレも忘れたー」

「おれもー」

不意にどこからか声が上がると、同じような言葉が次々と飛び交い、ルルーシュの周りはあっという間に男の群れとなってしまった。

こ…わ…っ!!

「俺がランペルージさんと帰るんだ!」

「バカッ、おれがルルーシュと…!」

男達は当の本人をそっちのけで、誰がルルーシュと一緒に帰るかを言い争っている。

ルルーシュは今の間に逃げ出そうとしたが、いつの間にか持っていたはずの折り畳み傘が男達の手に渡り、取り合いになっている事に気付く。

ルルーシュは俄然勢いを増す群れを前に、唖然として立ちすくむ事しか出来なかった。





あいつら何やってんだーッ!!!

スザクは遠くから状況を見、苛立ちを隠せないでいる。

ルルーシュの傘で相合傘しようとか有り得ないだろッ!!

その上群れは更に勢いを増し、ルルーシュを屋根の外へ押し出し始めている。

ちょっ、ルルーシュが濡れるだろ!!?

…俺が傘さえ持ってれば…。

本当に誰だ俺の傘持って行った奴…ッ。

「枢木君…っ」

視線を向けると、見慣れない女の子が恥じらいつつも傘を差し出してくる。

「傘無いの?良かったら…」

「ありがとうっ!」

その子が言い終わる前にスザクは顔を輝かせて傘を受け取ると、物凄い勢いで走っていってしまう。

「…一緒に帰らない?って言うつもりだったんだけど…」





…どうしよう、雨冷たいし、いい加減…

「ルルーシュッ!!」

自分の耳を疑いそうになりながらも、この瞬間に一番聞きたい大好きな声に呼ばれた気がして振り返ると、スザクが一直線ににこちらへ向かって走ってくるのが見えた。

ドキン、と胸が高鳴った。

「あっ…スザク…ッ!!」

ルルーシュもスザクの方へ走り出す。

来てくれた…!

「ルルーシュっ」

やっぱり好き…!

想いが溢れ出しそうになりながらスザクの傘に飛び込む。

「一緒に帰ろう」

「うんっ」





先程の大騒ぎから一転、静かな道を歩いている。

傘の中、会話はあまり交わされない。

その瞬間は必死でそれ程気にかけていなかったが、落ち着いてよくよく考えれば考える程、相合傘をしているこの状況が互いに気恥ずかしくてならないのである。

当り前ながら普段の下校よりも格段に距離が近く、肩がもう幾度も触れ合っては離れる。

ルルーシュは心臓の音がスザクに聞こえはしないかと、気が気では無い。

…な、何か喋らなきゃ…っ!

え…と、あ、お礼言わなきゃ…。

「あっ、あのスザク…ありがと…」

「んっ、うん。良かった、ルルーシュを助けられて」

スザクはこの時初めてまともにルルーシュの方を見、慌てて目を反らす。

透けてる!

すごい透けてる!!

びしょびしょに濡れてじゃないか、ルルーシュ!!!

朝はせいぜい下着の色程度しか分からなかったものが、今では凹凸の模様まではっきりと見てとれる。

かあっと顔が熱くなるのを感じた。

「…スザク、この傘…」

ルルーシュが花柄の傘を見上げて呟く。

「あっ、あぁこれ、知らない子が貸してくれた」

呼ばれた瞬間、やましい事を考えているのがばれたかと思ってドキリとしたが、言葉の内容に安堵する。

「知らない子?」

「うん。…あ、しまった。誰に返せばいいか分からないや」

あの時はルルーシュの方が気になり過ぎて貸してくれた子の顔なんかまともに見てなかったもんな…。

改めて、ルルーシュが絡むと他の事が目に入らなくなるのを認識させられる。

「…まぁ、会ったら思い出すかも知れないし、むこうから言ってくれるかも知れないし…、いっか」

ルルーシュは楽観的なスザクに不安になったが、結局つられて笑ってしまった。


「それよりルルーシュ…」

スザクはちらちらと横目でルルーシュを見る。

「すごく濡れてるけど平気?寒くない?」

「あっ…、…うん、平気」

と、ルルーシュは自分の身体を眺め、下着が透けている事に気付いたが、ここで隠すと妙に意識しているように見える気がしたので、あえて問題が無いように振る舞った。

「そっか、良かった」


…あれ、なんかグラグラし始めた?

身体、熱いし…。

「ルルーシュ…?」

耳がスザクの肩に触れてから鼓動が大きくなり、静まらなくなる。

早く帰りたい…。


ようやく枢木家に着くと、スザクはいつものように玄関の扉を開けて待った。


あ…帰ってきたんだ。

そう思った瞬間、全身から力が抜けた。

「ルルーシュ…ッ!?」

スザクの声が遠くで聞こえた。

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