V

「きゃ…っ」

気が動転して、満足に悲鳴も上げられず、ルルーシュは慌てて浴室へ戻る。

「ごっ、ごめんっ!」

それだけ言ってスザクは周囲の物に派手な音を立ててぶつかりながら、その場を去った。


ルルーシュは自分の身体を抱いて、ぺたんと浴室の床にしゃがみ込んだ。

あああ有り得ない…っ!

スザクに裸見られるとか絶対有り得ないっ!!

思わず涙が滲みそうになる。


…確かに他の誰よりスザクが一番ましなのかもしれないけど、それでも何でこんなに嫌なのかというと。


…それはやっぱり自分のスタイルに自信が無いから。

再び自分の胸を揉んで溜め息をつく。

…っていうか全裸…ッ。

何か一枚くらいあってもいいものを、全裸…ッ!

有り得ない…。





ていうか全裸ッ!!?

スザクは未だ火照りが冷めない顔で、膝を抱えソファの上で小さくなっていた。

…綺麗だったな、ルルーシュ…。

うわばかっ、思い出すな俺っっ!

どうしよう、嫌われたりしてないかな…。

…ああでも綺麗だったな…。

もっとよく見たい。

触りたい…。

………。

「うわッ!!」

手に何かが落ちたのを感じ、確認して初めて自分が鼻血を出していた事に気付く。

「うわーうわーっヤバッ…」

スザクはティッシュで押さえると、ドタバタと急いで冷凍庫から氷を取り出す。

鼻血噴いてるところなんか見られたら、絶対間違いなくルルーシュに嫌われる!!





「………すっ、スザク…」

ルルーシュは自分に背を向けてソファに座っていたスザクに声を掛ける。

「ルルーシュ、本当…っにごめん。洗面台に行こうと思ってただけで、ルルーシュが入ってる事全然知らなくって…」

スザクは背を向けたまま、まくしたてた。

「…分かってる」

…別に貧乳なんて興味無いだろうし。

「ごめん…」

「うん…。……?スザク…?」

スザクは先程から微塵も動かない。

自省しているのか、それにしては少し様子がおかしい。

…何か持ってる?

ルルーシュは尚も背を向けたままのスザクの正面に回る。

「どうしたの…!?」

スザクは真っ赤になって、顔に氷を当てていた。

「あ、えと、さっき学校で人とぶつかっちゃって…ははは」

目をうろうろさせながら答える。

「大丈夫…?」

痛いのかな…。

風呂上がりなのも加えて、ルルーシュの女の子特有の甘い香りがスザクの鼻腔をくすぐる。

ルルーシュ、近い…ッ!!

「かはッ!」

止まりかけていた血が再び吹き出しそうになる。

「すっスザク…!?」

「なっ、何でもないっ、何でもないからルルーシュ…!俺も風呂入ってくるよ!」

そう言ってスザクは逃げるように去ってしまった。


…スザク、妙に慌ててたけど、どうしたんだろう?

大丈夫かな…。





駄目だ、俺っ、駄目だ…っ!

鼻血を止めて浴室に入る。

ルルーシュと同居なんかしたら俺と、…息子がもたない…ッ!

でもあんまり怒ってないみたいで良かったな。

…本当に良かった。

あれ、そういえばこのお湯ってルルーシュが使った後のお湯…?

「………ッ!!」

スザクは今日だけで何度目かの鼻血をほとばしらせた。





スザクが風呂から上がると、丁度夕食の用意がされていた。

「スザク、怪我大丈夫?」

「うん、大丈夫」

ほんとは貧血の上、身体中の水分抜き取られそうなんだけどね。

そのエプロン姿も抱き締めたいくらい可愛いけど。

「ルルーシュエプロン似合うね」

「え?」

ルルーシュが振り返って、味噌汁の入ったお椀を食卓に置く。

「今日のお弁当もすごく美味しかったよ。ありがとう」

「あ…うん。良かった」

良かった…。

…けどさっきのはやっぱり単に家庭的って事なのかな。

うん、でもスザクに褒められた事が嬉しいし。

「あ…、美味しい」

スザクは味噌汁を啜って幸せそうな笑みを浮かべた。

「ほんと?」

ルルーシュも嬉しそうに聞き返す。

「うん。ルルーシュ将来きっといいお嫁さんになれるねっ」

「へ……っ?」

なっ、いきなり何を言い出すの…!?

しかもそれは『俺の』お嫁さん…な訳ないか…。

「あっ、いやだから…っ」

俺まずい事言っちゃったかな…。

「こんな美味しい料理出されて、エプロン姿も可愛いし、それで」

これはもうお嫁さんになって下さい!としか…。

「…それでお嫁さんっていう発想に結びついたというか…」

…無難にナイスフォロー俺ー…。

「…ルルーシュ?」

…スザク気付いてないのかな、今自分で可愛いって言ったのに…っ。

可愛い…可愛いって…!

…でも意識せずに言ったって事は別に何とも思ってないって事なんじゃ…!

えっ、いや、でも…っ。

ルルーシュはスザクの顔をちらと伺い見たが、にこにこして首を傾げるだけだった。

溜め息をつきたくなった。

「…ばかっ」

「………」

ぐは…ッ!!

ちょっ、ルルーシュ、上目遣いでそれは反則だーッ!!





夕食後、洗い物を終えたスザクが一息ついていると、洗面台の方からジャブジャブという水音が聞こえてきた。

…あ、もしかして洗濯してくれてるのかな。

ルルーシュに任せっきりは絶対駄目だから、取り敢えず洗い物はしたけど、もっと俺が引き受けないと。

…って言っても、料理は全く出来ない訳ではないけど、とルルーシュと比べたら桁違いだし…。

ゴミ出しとか、掃除とか、風呂洗いとか、出来る事は俺がやるってルルーシュに言わなきゃ。

…洗濯はルルーシュの下着とかあるだろうから無理だし…。

寧ろやりたいけどね。

ルルーシュってどんな下着着けてるんだろう…。

って待て俺、落ち着け…!

……待て、本当に待て。

今日俺は普段通りに服脱がなかったか?

「!!」

スザクは大急ぎで洗面台に向かった。

「………」

…時既に遅し、か。

水で濡れた手でスザクの下着を持ったまま赤面して固まるルルーシュに、スザクも同じく赤面し、壁の陰に隠れたままどうする事も出来なかった。

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