ころしやさん

□捕われたのは。
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5分としない内に、パーティ中であったであろう会場内は死体と血と硝煙の臭いで彩られていた。


冷静になり見渡すと何とも悪趣味で、これらの光景が映画のワンシーンで使われていたなら確実にR18の部類に入るであろうスプラッタ具合だ。


「はぁ…」


あまりに酷い鉄錆の臭いに連中が飲んでいたのであろうアルコールの香りが混じり、頭がくらくらしてくる。
小さな溜め息を吐き出した後近くにあった唯一無事だったといえる一人用の椅子に腰掛ける。この空間にいることも耐えられなかったが、何より今は具合の悪さと任務をやり遂げた倦怠感からしばらく動きたくない。



自分よりも大量の返り血を浴びている彼は珍しく血に酔ってはいないようで、自分だけこのざまかと悔しくなって近くに落ちていたピストルを蹴り飛ばした。



『何お前、具合わりーの?』


ようやくこちらの様子に気付いたらしい彼は、ゆっくりとした動きで死体を踏みつけながら目の前に来て、正面にしゃがみこんで顔を覗き込んでくる。


それだけ見ると優しげに気遣ってくれる良いセンパイなのだが、お互い頬や首周りのファーには他人の血が付着していて…何とも言い難い。


「…そーですね、誰かさんと違って血が好きなわけじゃないんでー。」


『ふぅん?じゃあ、お前は誰が好きなんだよ?』



…おかしなことに、彼の思考は結局堂々巡ってそこに行き着くらしい。
思わず再び溜め息を吐き出してから、怪訝そうな視線を送ってみる。


しかし彼の口からは、その質問だけが紡ぎ出される。


『答えろよ…、フランは、誰が好きなの?』


「…っ」



滅多に呼ばれない名前に、不覚にも一瞬言葉が出なかった。
答えない様子に変に勘繰ったのだろう、目の前の彼の纏う空気が変わったことに気付いた刹那…




唇を塞がれた。




瞬間、呼吸のために薄く開いていた唇の間から広がる血の味と、鼻孔を擽る鉄錆と彼の香水の匂い。

決して深いわけでも無い、ただ唇同士が触れ合うだけの稚拙な口付けにも関わらず、時間が止まったかのように氷つく。


息をするのも忘れて、ただ硬直していると彼の唇はゆっくりと離れていった。
時間にすれば、数秒だった。けれど、それは永遠にすら感じられる時間で…


「っ…、セン、パイ…?」


離れてから、彼の唇が震えていたのにようやく気付く。
思考が一切停止し、むせかえる程の匂いと自分の心臓の音だけが脳内を支配する。



『ゴメン…』



それだけポツリと言って、彼は死体の海を渡り暗闇へと消えて行った。



常識知らずな彼が謝罪を口にするのを、初めて聞いた日。


「……。」


血の海の中、キラキラと輝く金色だけが目に浮かんで…それを欲しいと望んでしまった日。





捕われたのは…


(ミーの方…かもしれない。)


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