ころしやさん

□朝食プレリュード。
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強引に絆創膏だらけの手に腕を引かれ、アジト内の食堂に連れて行かれる。


いつものパターン。


この時間は誰も起きていないのか、昼間の混み具合が嘘のような静けさだ。

その静かさと広さは気に入っていたが、そもそも何故こんな早朝から起きてわざわざ朝食をとらなくてはいけないのだろうか。


『良いから良いから、今日はお前の好きなオムライスだぜ?』


いつもの窓際の席について尚ぶつぶつと文句を言っていると、隣で彼が立ち上がる。

「…何で知ってるんですかー?」


両方の意味で、何故知っているのだろう。
自分の好物を話す程友好的な会話をした覚えも、毎朝の献立が出ていた覚えもない。


そんな怪訝そうな視線を感じたのか、料理を取りに向かおうとしていた彼は振り返り、にんまりとお得意の笑みを浮かべ、いつもながら意味のわからない台詞を吐いた。



『だってオレ、王子だもん♪』




しばらくして彼が持ってきた料理は本当にオムライスで、湯気が少し立っていることから出来てまだ間もないのだろう。


毎朝、日増しに美味しくなる料理。



ここのコックは毎朝早起きして料理の腕を磨いているようだ。
…その真面目なコックの爪の垢を隣の堕王子に飲ませてやりたいと考えながら、気が付くとオムライスを完食していた。


『美味かった?』


人を誘っておいて毎朝何も食べていない彼は、自慢のナイフを弄りながら此方をニコニコとした様子で見ていた。
その絆創膏だらけの手に、そこまで怪我をするならナイフなんか弄らなきゃいいのにと考えながら、素直にコメントを返す。

好物というのを差し引いても、今日のオムライスは絶品だった。


「とろとろでふわふわな卵、美味しかったですー。センパイも食べればよかったのに。」

『オレはいいんだよ。』

「何でですかー?」

『うまそーに食ってるの見てたら、それで十分。』

「…。」


良くわからない。


そう感じながらも漠然と解るのは、明日も朝から部屋には彼が押し掛けてくるであろうということと、明日は更に美味しい料理が食べられるのであろうということ。

そして…



ご機嫌な様子で食器を片付けに行く彼の手には、明日も絆創膏が増えているだろうということ。



(早朝のコックの姿を、ミーはまだ見たことがない。)



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