02/08の日記

21:52
キンモクセイの花
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秋に香る、その花の名を片言で

その歌に救われ
その詩に憧れ
その声に焦がれ

飾らない生き方そのものが眩しかった

「朝方読まれているのでしたならば、おはようございます。
お昼時でしたならこんにちは。
お仕事を終えて帰宅の路へ着くところでしたならばこんばんは。」

日常と幸福と思考

「日記のような詩が好きでした
伸びやかな声が好きでした
飾らない姿が好きでした」

―嘘吐き
誰かが呟くのは
―本当のことを吐いてしまえよ
私の真の心
―送り続けたあの手紙とこれは違うのだから
ああそうだ 決して返されることのないあれは…
―誰に咎められることもない
言ってしまえよと

本当は

葛藤と煩悩と苦悩
他人を信じぬ鋭い瞳が好きでした
震えるような感性で書かれた詩が好きでした
脆さと強さを秘めて歌う姿が好きでした

希薄な雰囲気 触れてはいけないような
(それは、どこか遠くの銀河系を思い出させた)
染まらず透明であり続けるあなたが好きでした

ある日
あなたは人間になってしまった

疲れ切った体
精神を守るために手放した鋭さ
生きるために殺した感性
繰り返される自問自答
それは誰もが行き着く葛藤
長い生命か満たされない芸術か
どちらも捨て切れなかったのはほら
あの作家達 芥川や太宰治

あなた 人間になってしまったから

この惑星に渦巻く色に従事した
透明なままでいるにはあまりに辛い場所だった

恨んでなどいない
責めるなどもってのほかで
ただ一言 届けられるものがあるとすれば、それは―

「…まだまだ寒い日が続きますので、どうぞお体にお気をつけてお過ごしください。

最後まで読んでくださいまして、どうもありがとうございました。」

綺麗な言葉を綴り続けたペンを置いて天井を見上げる
疑問を抱いた夏の日 冷めてしまった十三の月
あの時 良くみられたいなどと思わず
素直に本当の心を書けば 今ここでこんなにも悔やまなかったのか
答えは無い

―君の微力が何になる?
―己惚れはやめたまえよ

敬愛する作家たちが書架で嗤う
全くその通りだと思った
私の言葉が何になるのだ
届いていたかすら分からぬというのに

「余計なことを考えていると 頭の中が腐ってしまうよ」

流れていた曲を止め ぎこちなく笑みを浮かべる
そのまま手を伸ばし 最後の手紙を破り捨てた

さようなら 私の心の青い鳥

秋に香る、その花の名を片言で
高潔すぎた、その人の名を餞に

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