ファンタジスタ

□金魂
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「栄養失調、睡眠不足…つまるところ過労だろうな」


診察を終えた後、長髪は資料を見ながらさらりと言った。


「おいズラ、肩はどうなんだよ」

「ズラじゃない桂だ。…診たところ骨に異常はないようだ。まぁレントゲンを撮ったわけではないからはっきりとはわからんが、多分打撲であろう」


長髪のその言葉を聞くと、金髪は「はぁーよかった」と漏らした。


「俺の所為で骨グチャグチャになってたらどうしようかと思ったぜー」


…いちいち言葉が勘に触る。
体を見て貰った以上、此処にいる理由もないので席立とうとすると、不意にに金髪と目が合った。
一瞬頭の中にさっきの事がフラッシュバックし、足が竦んでしまう。
足の力が一気に抜けて、元いた丸椅子にポスンと座ると、金髪はなにやら満足そうな顔をしていた。


「とりあえず肩には湿布を貼るとしてだな…時に小娘、お前は日本人か?」


長髪は救急箱のようなものから湿布を取り出すと、私の目を見ながら言った。
多分目の色の事を言っているのだろう。


「あぁ…コレはカラコン…」


私は右目のコンタクトを外して見せた。
碧色のコンタクトの下から、黒い瞳が出てきたのを見て、長髪はハァ、と盛大にため息をついた。


「最近の若者というのは何でもかんでも欧米人の真似をするものだな」

「欧米人は嫌いなの?」

「…あまり好かない」


もう一度盛大にため息をつくと、長髪は白いデカイのに湿布を手渡した。
白いデカイのは私の服を少しずらし、丁寧に肩に湿布を貼ると何も言わずに元の位置に戻っていった。


欧米人を好かない。
まるで幕末の維新志士か戦時中の軍人のような古い考えだと思うが、あながちそうとも言い切れない。
それというのも、此処新宿特に歌舞伎町では、近年外国人ホストやホステスが勢力を伸ばし、至る所にクラブを立てたせいで、日本人ホスト、ホステスは衰退したからだ。
もともとこのような接客業によって需要と供給を成り立たせてきた歌舞伎町がガラリと顔を変えてしまった為に、溢れてしまった人も少なくはないと聞く。
きっとこの闇医者のように裏の世界を見てきている人はそう思うのだろう。
華やかなものの裏には必ず汚いところがあるものだ。


「さーて失礼するかね」

金髪はパシンと膝を叩くとその場に立ち上がった。
私も釣られて丸椅子から立ち上がると、長髪が金髪を呼び止める。


「金時、診察料なんだが…」

「あ〜?なじみだろ?サービスしとけサービス」

「貴様さっき金はあると言わなかったか?」

「脳年齢衰えてるから忘れました」


金髪はヘラリと笑うと私の腕を掴んで、診察室のドアを開けた。


「じゃーなズラ。また頼むわ」

「ズラじゃない桂だ。もう来るな無職が」


私は最後に振り返り長髪に軽く会釈をすると、金髪の背中を追った。
長髪が少し笑ったように見えたけど、すぐに目を逸らしたため、よくはわからなかった。





病院がある古いビルからでると、時は既に朝方になっていた。
うっすらと明るい街中を金髪は私の腕を引いたまま、スタスタと歩いていく。
昨晩この道を私はお姫様抱っこされたまま通ったかと思うと、意識はなかったにしろ恥ずかしくなった。


「ねぇ、」

「あん?」

「もういいよ。離して」


金髪は振り返ると、ものすごい嫌そうに眉を顰める。
私は少し肩を竦めた。


「お前、この手離したら逃げんだろ」

「……」


私が何も言わないでいると、金髪はクルリと前を向き、また歩き始めた。


「ちょっ…」

「拾ったもんは最後まで面倒見なきゃなんねーの」


まるで本当に犬猫のような扱いだったが、私はそのことに文句を言う気にもなれず、そのまま連れてかれるがままになった。
今引っ張られている腕は怪我していないほうの腕であったが、私はその手を振りほどくことも、振り払うことも出来なかった。

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