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そりゃあ、私は先生よりも7歳年下だし、ガキだし、胸だって浅間山レベルくらしいしかないけれども、この気持ちは本物なんです。
退屈な政経の時間、私はいそいそと先生への手紙を書いていた。青い便箋に、黒いペン。ちょっとは落ち着いた女の子に見えるようにいつもの丸文字はやめて、書道の時間以来の私的に美しい字で一文字一文字ゆっくりと便箋にインクを滲ませた。トメ、ハネ、ハライ、書き順しっかり。そうして丹精込めて作り上げた私の超大作は、便箋三枚目までに及んだ。やっべ、少し想いが溢れすぎたか。ま、いっか。少ないよりも多いほうがいいもんね。ご愛嬌ご愛嬌。三枚の便箋を互いに隙間なく重ねて、折り紙で鶴を作るときみたいにみたいに丁寧に三つ折にして、これまた青い封筒に重ね折られて厚くなった便箋たちをしゅしゅしゅ、と入れた。頼むぜ〜私の健気な気持ちちゃんよ〜先生にその想いの丈を伝えてくれよ〜。さあ、仕上げにいこうと、封筒を糊付けしようと思ったけど、花の女子高生がノリなんて常備しているわけが無いので(だって何に使うの?え?勉強?いやいやいや…)隣の席の山崎くんに借りることにする。おい山崎ノリ貸せや、いやなんで借りる側なのにそんなに威張ってんの、ごちゃごちゃ言ってねーでちゃっちゃと貸せや、別にいいけど…ちゃんと返してよね、わかってるわかってるサンキュー山崎。山崎くんから手渡されたノリは、ステックタイプだった。なんかリップクリームに似てるやつ。このタイプは液体タイプとは違って、紙がフニャフニャにならない。わかってんじゃねーか山崎。封筒の上にあるピラピラしたところにノリを押し付けてそのまま横に引っ張ると、そこには白い太い線ができた。よしよし、順調順調。それから、ピラピラを折り曲げて、下の紙にくっつけたら…完成〜。わーい。私はこのまま立ち上がって、クラスの皆一人一人に、この青色ラブレターを見せて回りたい気持ちになったけれども、それは健気でシャイな女の子としてどうかと思ったので、やめる。女の子はそんな野蛮なことはしないのよ。手紙を作り終えた後、授業終了まで適当な時間が空いて、暇になったので、ステックノリどこまで出せるか限界まで挑戦!をやっていたら、限界まで挑戦しすぎて、白いステックノリは丁度全体の真ん中辺りで真っ二つに折れてしまった。うわーうわーやベー。幸い山崎くんは授業に集中しているらしく、こちらの惨劇に気がついていなかったので、私は急いでその折れて短くなってしまったノリをなんとかしてくっつけ、元のサイズへと戻した。ゴメンネ山崎くん、このことは胸に大切にしまっておくよ。勿論、先生への想いとは別の所にだけれども。
7年ってどれくらいだろう、と考えたときに、小学生が中学生になるくらいだと思いついて、なんだか無性に切なくなったことがある。私と先生の間には、一人の人間が掛け算の九九から因数分解の初歩を覚えることが出来るくらいの時間が空いていて、その隙間を埋めることは絶対に出来ない。愛に年なんか関係ないってよく言うけど、本当はそれなりに関係があって、そのことでそれなりに悩んでる人は五万といる。私もその中の一人。残念ながらその一人なんです。
でもね、先生。私はそれ以上、つまり時間の重さに悩む以上に先生の事が好きになっちゃったの。しょうがないよね。それは理屈じゃないもの。朝も夜も先生のことばかり考えてるくらいなんだから、本当に好きなんだと思うよ。ねえ先生、私はこの気持ちを巧く説明することが出来ないし、押さえつけることも出来ないみたいだから、思い切って先生に告ってみようと思います。
先生、大好き。


彼女の事情
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