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芽吹く緑と透き通る青がざわざわと耳に届く。
やはり墓地は静かで、その音さえもやけに大きく聴こえる。でも嫌じゃない。
墓参りには半端な時期なので周りには私と銀ちゃんのほか誰もいない。
アイツも余計な時期に死んだもんだよな、また銀ちゃんは笑った。

墓標の前に2人、しゃがみこむと銀ちゃんは片手一杯に持っていた白百合を花瓶に刺した。
白い花びらが太陽の光に反射して私の顔に当たる。少し目を細めながら、新しい線香を香炉に置いた。
銀ちゃんの体から離れた白百合は、綺麗な墓石の傍らで生き生きとその花びらを開いている。
どうしてかな、またちょっと泣きそうだ。

「よぉ、元気か」

私が出会ったのは万事屋の銀ちゃんであって、その前の銀ちゃんではない。
当然、仲間も知らないし、彼女のことも知らない。
今でさえ何も知らない。何もわかっていない。
だからこそ彼女に一つも嫉妬しないと言うのは嘘になる。

でもね、銀ちゃん。
私は彼女を超えられなくても、彼女の変わりになれなくてもいいの。悲しいけど。
それでもね、銀ちゃん。銀ちゃんの足が地面にめり込んじゃう前に、半分くらい持ってあげられたらって思うよ。
少しでも、楽にしてあげたらって思うよ。銀ちゃん。
ぼんやり生きてきた私にどこまでできるかわからないけど。



銀ちゃんには大切な人がいる。
きっと気高くて美しい人だった。




「俺達結婚するよ」



白夜叉と墓参り
銀ちゃんが祝ってくれるか?と聞くと、風がサァァと吹いて白百合が揺れた。


(いない人、残った人、知らない人)

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