ごちゃまぜ

□二宮和也
1ページ/2ページ

どいつもこいつもイカれた貞操観念持ちやがって。車の窓を開けてそこから未使用のコンドームを投げ捨てた。四角いビニールがアスファルトの上を転がっていくのをサイドミラーで確認する。誰かが拾ってくれてもかまいやしないさ。なんならそれを使ってくれてもいい。俺の変わりに甘い夜を楽しんでくれよ。とは言え俺もその「甘い夜」ってやつを楽しんできたところなんだけどね。皮肉がわからないのならそれでもいいのさ。
午前二時を回る道路は予想通りラガラに空いていて、それを盛り上げているのは遠くの方でウィンカーの黄色い光が付いたり消えたりしているだけの淋しいイルミネーションだった。オレンジ色の街灯が車内に入り込んで誰もいない助手席を照らしたりなんかしてくれちゃってるから、一体それは誰の為のスポットライトなんだいって聞いてみたけど、無口で陽気な街灯は何も答えちゃくれなかった。おーけーおーけー頭の悪い俺には見当付かないから、両手を上げさせていただくよ。おっと、ハンドルからは手を離さないでね俺。
車が道路の線部分に入った瞬間、アクセルを強く踏んでスピードを上げた。前方にいるイカした外車を抜かしてやるんだ。国産舐めんなよと言わんばかりにエンジンは低い唸りを上げて鼓動を速めた。上がっていくだけのスピードで車間距離ををぐいぐい縮めていく。よっしゃ今だ!と思って車線変更をして併走し始めた時、外車のスモークガラスの窓が開いていて、その気は無かったんだけれども、偶然見えちまったんだよ。助手席に乗っている女がシートベルト外して、運転中の男の股間に顔を埋めているのをね。あーあって思って、なんだかやる気なくしてスピードも落として、俺の国産ベイベーはしょんぼり元いた車線に戻っていったよ。情けないけど、あんなの見せられちゃ誰だってそうすると思うよ。
暫くぼんやりしながらクソ真面目に制限速度守りながら走っていたのだけれども、だんだん沸々とやるせない感じの怒りが沸いてきて、もう一度アクセルを強く踏んだ。クソ!運転中にヤってんじゃねーよ!深夜だからってなんでも許されるわけじゃねーぞ!わき道に止めてからヤれ!もしくは車降りて草むらの中でヤれ!寧ろ家でヤれ!つーかシートベルト締めろ!
ヤってて事故りましただなんて、面白すぎて誰にも話せないだろう。

今日寝た女は俺の好みの顔した奴で、夕飯の時なんか結構気さくになんでも話すし、あんまり後腐れなさそうだったから、今日は当たりかななんて思って、ウキウキしていた。気に入ったらこういうフランキーで楽チンな関係を続けていけばいいし、駄目だったらそれとなくうまい具合に疎遠になってけばいい、とか考えながらね。でも一緒にホテルのベットに入ったら、いろいろと面倒になった。普段その眉のように全身をキリっと決めた彼女は、ベットの中でも自分をスタイリッシュにプロデュースしていて、なんだか俺は助平なプロデューサーみたいだった。美少女フィギアを抱いているようだった。こんなときくらい素朴な田舎娘に戻ればいいのに。これはあくまでも外面的な話だけれど、どんな女にもおっぱいがあって、穴があるわけだから、ヤってる最中の男にとってはどうでもいいんだよね、そういう自分アピール。あくまで外面の話ね、外面の。おーけー?
そんなこんなで終わった後、そそくさと帰り支度を始める俺に彼女は、明日仕事あるなら今日はここに泊まってそのまま行けばいいじゃないと提案したのだけれども、その時俺は最高潮に面倒になっていたから、同じ服着て仕事行くのは嫌だって嘘ついて、渋る彼女を巧く丸め込んで、ホテルを後にした。自分でも思うよ?俺って最低ってね。でも嫌なもんは嫌だし。無理をする義理もない。泊まっていったほうが体に優しいプランなんだけど、精神的には厳しいプランだったから、そっちを優先した。俺って心身二元論みたいなこと信じてるタイプなの。意外でしょ。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ