ごちゃまぜ

□エバーラスティングライ
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ある男の話

俺は掘っている。
ただひたすら掘っている。
何を掘っているって?
そうだな、夢を掘っているのさ。

辺りを見渡す限り一面砂はかりだ。その他にはなにも無いし、俺以外だれもいない。空には燃え盛る太陽だけがどっかりと居座っていて、この砂の海に皮膚を刺すような光を落としている。その光の刃から俺を守ってくれる雲なんてもんは存在しない。赤い太陽と青色の絵の具を水で思いっきり薄めたような空、そして何処までも続く茶色いだけの台地。この殺風景な景色の中で、俺は夢を掘っている。

俺の家は貧乏だった。金がなくて金がなくて、毎日地べたを這い蹲るような暮らしをしていた。辛いなあとは思っていたが、不幸だとは思ったことは一度も無かった。こんな俺にも愛する人がいたからだ。
暑ければお互い服を脱いで裸になったし、寒ければあるだけの衣服を着込み、体を寄せ合わせて寝た。楽しいことがあれば、一緒に楽しんだ。悲しい事があれば、お互いの為に泣いたりもした。
どんなに辛い状況においてでも、1人じゃなければ生きていけるもんだと思っていた。人間は自分の為と誰か大切な人の為に生きるもんなんだ。事実俺たちは自分が生きるために食い物を食うが、相手を生かす為に食べ物は必ず半分にして食べた。
毎日最低な暮らしをしていたけれど、毎日最高に暮らしていた。ただ隣に最愛の人がいるだけで、俺は幸せだった。

しかしその幸せは、いつまでも続くわけではなかった。
俺たちはとにかく貧乏だった。今まで一生懸命やりくりをして、なんとか生き延びてきたが、遂にそれにも限界が訪れた。借金もできた。毎日毎日借金とりがやってきて家のドアを荒々しく叩いた。俺の家は古い木造建築だったから、借金取りがドアをバンバン叩く度に家がミシミシ揺れ、まるで俺の家だけに地震がやってきているみたいだった。
俺は金がなくとも幸せだと思ってきたが、あの時ばかりは金がなければどうしようもないと思った。俺は頭を抱えて、うんうん唸った。もうどうすればいいかわからなかった。
そして俺の最愛の人は一つの決断を下した。自分が借金の代わりになると。
それ即ち自分を身売りにだすと言うことだ。俺はけして首を縦に振らなかった。俺はお前がいたからここまで生きてこれたんだ。お前がいなければ生きて行けない。しかし彼女の決意は固かった。この状況を打開するには、二人が生きていくにはコレしかない。俺は弾かれたように家をでて近所中を駆け回り、金を貸してくれないかと頭を下げまくった。しかし貧乏で、借金のある俺に金を貸してくれる人は少なかった。
俺が両手を地べたにつけて頭を下げているのを見た人が笑いながら言った。
「石油でも掘る以外ないんじゃないの?」
わなわな震える拳を硬く握りながらも、俺はもうそれしかないのかもしれないと思った。

彼女が身売りに出される日、錆びたシャベルを担いで、俺も一緒に家を出た。彼女がいなければあの家にいる意味ない。俺は家を売って、少ないながらも軍資金として役立てることにした。思い出がなくなってしまうようで悲しいと
彼女が嘆くので、俺は彼女に強がりを言った。おそらく彼女も強がっているだけだとわかっていたのだろうけれど、にっこりと微笑んでゆっくりと首を立てに動かした。

あの日かずっとら、俺は掘っている。
ただひたすら、彼女ともう一度幸せな生活を夢見て、掘り続けている。

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