ごちゃまぜ

□エバーラスティングライ
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ある女の話

私は待っている。
いつか私を迎えに来てくれると信じて、待っている。

この街に生きているものは何もない。あるのは薄汚いお金と一夜限りの嘘ばかり。道行く人の頬を照らす色とりどりのネオンは儚げで綺麗だけれども、少し狭い道に入れば暗くじめじめしていて、生ゴミなどがそこら中に散乱している。
そんな街で、私は作り話のような愛を売っている。

この職業についた女は一生日の目を見れないと誰かが言っていた。確かに私は太陽が沈む頃に目を醒まし、昇る頃に床につく。そういうことでないことはわかっている。私達のような体を売ってお金を作っている女には、人生の夜明けはやってこないということだ。月、とでも言うことができれば大層なものだろう。実際の私達は白い顔さえしてはいるものの、酷く薄い生地の服を着て、ふらふらと歩き回るその姿はまるで幽霊のようだ。
毎晩、誰かが私を抱きにやってくる。目が眩むほどの量の札束を掴んだと言うその手を私の腰に回し、いい物ばかりを食べすぎて肥えてしまったと言うその下で私の体を舐める。耳にかかるワインで濡れた息がたまらなく嫌だ。こんな男に抱かれたくなかった。しかし私はこういう私利私欲を肥やした男達がいないと暮らしていけないのだ。
いろんな男達に抱かれながら、私は最愛の人の事を考える。石油を掘りだすだなんて無茶なことを言って、私と一緒に家を出た彼のことを考える。思えばあの頃はとても幸福だった。今のように金持ちの男のおこぼれではあるが何万もするようなフランス料理を食べるなんてことはなかったし、ブティックのショーウインドーに並ぶようなブランド品を着ることだってなかった。だけれども、あの頃二人で半分にして食べたレストランの残りかすのような料理以上に美味しいと思えるコースなんてないし、二人できた布切れ以上に温かい服もない。なにより貧乏だけれども毎日笑っていた楽しんでいた彼以上に、愛しいと思える人は絶対にいない。

散々に私を抱いた男が去った後、私はこの薄汚い街に降り注ぐ白っぽい朝日を眺めながら、あの日彼が言っていた言葉を思い出す。
「二人は大丈夫、明日を信じて待っていてくれ」
信じられる要素なんて何処にもない。誰かに話せば笑われるだろう。だけど私は彼のことを信じている。そこは理屈ではない。確率だとか可能性だとか関係なく、いつか彼が夢を掘り出して迎えに来てくれることを、私は真剣に待ち望んでいる。今の私を支えているのは紛れも無く彼のこの優しい嘘で、私は彼がいないと生きていけないのだ。

ビルとビルの隙間に太陽の欠片を見る。黄金色をした太陽の欠片。私は待っている。
ただひたすら、私達の夜明けを待っている。

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