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空は晴れていた午後4時。
空気が冷たく感じて。
西日が黄色に光って眩しかった。
机の上には食べかけのチョコ。

「チョコは好きじゃないのに」

中途半端に残っているから捨てられない。
だからそのままにしてある。

実際に、現実がわかってしまうと
この上なくすっきりした。
少し前までの不安や妄想に縛られ
何処にいても感じる恐怖にビクビクするような感覚
それから開放されたみたいだ。

すっげーソウカイ感。

ただやっぱり後遺症は残るみたいで
あのチョコレートはそれだ。


捨てられないのは、


きっと、
明日も明後日も明々後日も
何も無いんだろう。
何も無くなってしまったのだろう。
呪縛から抜け出してきたのと一緒に
体の一部を置いてきてしまったよ。

唯一、それと私を繋いでいるのは
あの中途半端に残ったチョコレートだけ。

少なすぎるほどの財産が
机の上、日の光を浴びて光っている。


私はそれに手を伸ばした。



写真も手紙も貰ったものも
(言葉も思いでも匂いも)
全部消して残ったチョコレート。


チョコは好きじゃない。
(でも彼は好きだった)

甘く最後までしつこく残るのが嫌だ。
(それはこれととてもよく似ていた)


私の中。どこかで残る甘い



口にふくむとやっぱりあの味が広がった。

空が暗くなる午後5時。
澄み切った私がどうしても消せなかったチョコは箱だけになった。

チョコレートは私の中でずっと生きていくんだろう。
それでも、いいや。

初めてチョコレートが美味しく感じた。





チョコレイト



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