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□W KING OF FOOL
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それは夜も更け、街も人も寝静まった頃。

一人の女が喧騒の喪った夜道を歩いていた。彼女の視界を照らすのは等間隔に列べられた数本の街灯と、柔い欠けた月の光だけだった。

女は家路を急いでいた。残業帰りで明日もまた朝が早いのだ。その上、深夜の街中で何があるか分からない。車の通りもほとんどなく、不気味でもあった。



ふと、薄暗く照らされた歩道に目を向けるとほんの20メートル先ほどに人影が見えた。一瞬不審者の類いではないか、と体を強張らしたが、まさかと思いすぐに気を持ち直し歩を進めた。



徐々に詰まっていく人影との距離。
5メートル間になり漸くその姿を見ることができた。





長身で仕立ての良い漆黒のスーツを着こなしている。が、淡い月明かりと青白く無機質な蛍光灯の灯りでも白髪とは間違えさせない銀髪は、その装いとは不釣り合いだ。
女の角度からは見えないが、髪は腰辺りまであり上目に後ろで一つに結ばれている。縛り切れなかったのであろう、頬から鎖骨にかけて艶やかな銀髪がその者の顔の輪郭を覆うように出されている。



息を飲むほどの美しさと妖艶さ。女は思わず立ち止まってしまった。それと同時に疑問が湧く。
男性か或いは女性か…



すらりとした体の線、長い睫毛や吊りがちだが大きめの目は中性的という言葉が似合う。しかし高い鼻と薄めの唇、丸みを帯びていない顔の輪郭は男性的だ。



気付くとその者もまた、女の正面に立っていた。



暫しの沈黙─────。





銀髪が僅かに揺れる。





途端に響く、艶のある声。若干高めだがその声は男のものだ。

















「ねぇ…」

甘えるようにも、ねだるにも聞こえた第一声。





そして──────…















「レディ、ボクに君の甘い甘い…」

だんだんと近寄ってくる男。

訳も分からず、ただ立ち尽くしている女。













「美味しい美味しい血を頂戴?」


















女の悲鳴が月夜の静寂を打ち破った──────











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