庭球

□日吉VD
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「きゃー!!跡部様ー跡部様ー!!」

「跡部様!!チョコレートです!!」

「私のチョコ貰って下さい。」



部室の窓から外を覗くと部室の周りはチョコレートを持って駆け付けた跡部くんのファンでうめつくされていた。




「これじゃ外出られないじゃないですか…」

「そうだね。外の子達は跡部くんを待ってるのに若くんが出たらがっかりするだろうね。」


私の言葉に若くんはムッと明らかに不機嫌そうな顔をする。


「ちっ…何なんだあいつら…練習の邪魔だ。」

「妬まない妬まない、」

「妬んでなんかないですよ!!!」



むきになる所も可愛いな。

わざと彼を不機嫌にさせる事を口にし、
なんて楽しむ私はきっと意地悪な先輩。



二人きりの部室に暫く沈黙が流れる。
余計に外の黄色い声が気になって仕方がない。


「ご苦労様だねー…。
ここにはいないのに跡部くん。
きっとまだ生徒会室だろうな。」


椅子の上で膝立ちして、
窓に両手を着き外の女の子達を見てそう呟く。
マジックミラーだから彼女等からこちらの様子が見える心配はないだろう。


「……せんぱい…」

「ん?なぁに?」

「先輩は…?先輩は跡部部長にチョコレート渡さないんですか?」



背中に若くんの視線を感じる。

こっち見てるんだなきっと。


「うーん跡部くんに渡してもきっと
適当に処分されちゃいそうだからね。」


若くんにそう言いながらも私の視線は窓越しに見える跡部くんファンの女の子達。


するとカツンと足音が一つ響く。
あ、近付いて来たかな?


あと5歩…



「忍足さんには?」

「ないねー。好きじゃないからー。」


あと4歩…。



「宍戸さんは?」

「うーんないんだよなー。」


あと3歩…。



「芥川先輩は?」

「ジローちゃんには悪いけどないんだよね。」

あと2歩…。



「………鳳には?」

「可愛い後輩だけどね。残念ながら」


あと…一歩…。





「じゃあ……、





俺は………?」



−−カツン


靴の音と共に後ろから伸びた若くんの両手。

その手は私の顔のすぐ横に着き、
私は若くんと壁(窓)に挟まれるかたちになる。





「やっと聞いてくれた。」


そういって振り返るとブレザーの内ポケットからラッピングされたチョコレートを差し出す。



「若くんが…好き。」

「俺もですよ…先輩…。」



そう言うと若くんの顔が近付いてきた。
背には窓。横は窓に手をついた若くんの腕があって逃げ道はない。



「ぁっ……若くん…」

「先輩…」


まさに二人の唇が重なろうとした瞬間。




「きゃー!!跡部様ー!!」


一際耳に響く黄色い声にお互いハッと顔を離してしまった。



「は……はは、雰囲気も何もないね」

「ちっ…跡部さんのファンに邪魔されるのは何か癪だ。」

「ちょ…っと……わ、若くんっ!!?//」



若くんはいきなり私を抱き寄せ、
反対の手で荒々しく窓を開いた。


「あ…」とバツが悪そうな顔で静まりかえる跡部くんファン達。



「おいメス猫供。
跡部部長ならここにはいねぇ。
ここは俺達の愛の巣だ。
わかったらとっとと失せろ。」

フッと笑ってそう言いのけると若くんは再び窓を閉めた。





「これで静かになりましたね。」

「いや……あの……。」

「何ですか?」

「若くん、跡部くんに似てきたよね?」



(俺様、何様、若様)



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