その他


□When I was in love
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白いキャンパスを黒で塗りつぶしたような真っ黒な空に、
宝石でも散りばめたかのような綺麗な星達が瞬いている。

そんな幻想的な一時の時間の中でシェリルはぼぅ・・・っと立ち尽くしていた。

いや、正確には立ちながら・・・
目から溢れる大粒の涙を地面へと吸い込ませていた。

虚ろな顔で空を見上げ、何を思っているのか分からない視線は何故かある一点へと注がれている。

そんなとき視線の注がれていた方向の茂みが突然動き出し、
驚いたシェリルは慌てて大粒の涙を袖でふき取る。

茂みから人影が出てきた。

「だ・・れ・・・?」

上手く発音することが出来なかったシェリルのかすれた声は小さな雑音として紡ぎだされた。

けれど、茂みから出てきた人影がにはちゃんと聞こえていたらしい。

こちらを向き、微かに動く。

そして月明かりが照らす場所に出てきた。

「貴女・・・ランカちゃん?」

「・・・はい」

緑色の髪の毛。幼い容姿。飛行機の形バッグ。手には緑色の生物。

まさしくランカ・リーだった。

微かな微笑みを浮かべ、ランカはシェリルに近寄ってきた。

「ランカちゃん・・・こんな時間に何してるの?危ないじゃない」

「それを言ったらシェリルさんもじゃないですか?
貴女みたいな人が夜遅くにこんな所に居て、何かあったら大変ですよ?」

「ふふ・・・あたしはいいのよ。あたしの優秀な部下様がGPSだかなんだか付けてくれてるから。
ランカちゃんは?なんで此処にいるのかしら??」

シェリルの問いにヘラヘラと笑ってみせるランカ。

「そんなたいした理由じゃないんです。昨日、雨だったから・・・今日は星がよく見られるかな?って・・・」

「そう・・・ランカちゃんって結構なロマンチストね?」

「え、あ、いえ・・・そういう訳じゃないんです!!ただ・・・綺麗そうだなって思って・・・
それに、この前アルト君が言ってたの思い出したんです」

「・・・アルト?」

ランカの口から出た「アルト」という人物にシェリルは驚いた反応を示す。

だが、ランカもシェリル本人も気付いていないようだ。

「はい!アルト君が、雨が降った後の夜空を見上げると星が綺麗に見えるんだって
・・・教えてくれたんです」

「へぇ〜・・・あの発情坊やも結構なロマンチストって訳ね」

「え!?そうなんですか?」

「あはは、そうだろうなって思っただけよ。ランカちゃんって面白いわね〜」

「え、別にそんなこと無いですよ!!」

シェリルのからかいにランカは翻弄している。

・・・ようするにされるがままになっているのだ。

顔を真っ赤にしたランカが、赤面しながらもシェリルに問いかける。

「シェリルさんは?・・・・どうして此処に居たんですか?」

「えっ・・・」

ランカに質問された途端にシェリルの表情が硬くなる。

笑顔が一瞬にして苦笑いに変化した。

「あたしは・・・大人の事情ってヤツよ!
時々1人になりたいときだってあるのよ〜」

そういってムリに笑うシェリルの笑顔はランカでも見破れるほど辛そうな笑顔だった。

「シェリルさん・・・?今なら、ムリしなくても・・・シェリルさんのままで居ていいんじゃないですか?」

「えっ??」

「シェリルさんの今の笑顔・・・はち切れそうなくらい、辛そうです・・・」

驚いたシェリルの顔からは無理に貼り付けた辛そうな笑顔は消え、
今にも泣き出しそうな儚い表情に変わっていった。

「シェリルさん・・・?」

「ねぇ・・・ランカちゃん?あたしにだってね?どうにも出来ないことなんかたっくさんあるんだから・・・
それをどうにかしろって言うほうが間違ってるわ」

「えっ?」

そういって、顔を背けたシェリルから発せられた声は妙に震えていた。

長い沈黙が流れ、ふとシェリルが重い口を開く。

「ねぇ、ランカちゃん・・・ランカちゃんは、発情坊やが好き?」

「えッ?発情坊や?」

「アルトのことよ・・・」

「・・・私は好きですよ。恋愛感情とか・・・そういうんじゃなくてただの友達として。
アルト君って・・・すごい素敵な人だと思います!」

「そう・・・」

そういって、シェリルは顔を伏せる。

「シェリルさん・・・?」

「・・・あたしはね?認めたくなかったわ。いまでも・・・嘘なんじゃないかしらって思ってる。
けど・・・けど、想いが溢れ出して来てしょうがないの。あいつを見ると痛いくらい胸が疼き出すのよ?」

「・・・それは、アルト君のことが好きってことですよね?」

「そういうことになるわ。ランカちゃんもビックリしちゃうでしょ?あんなヤツが好きだなんて・・・
ランカちゃんと話してハッキリ分かったわ。あたしはあいつが好きみたい。
この気持ちを抑えきれないもの。」

自分の感情を表に出し、いつのまにか溢れ出した涙がシェリルの柔らかな頬を伝って流れ落ちていく。

儚げな・・・けれど、なんだかサッパリしたような笑顔だとランカは思った。

区切りを付けれて、なんだか嬉しそうに見えたのだ。

「シェリルさんが・・・・」

「?」

「シェリルさんが、好きだと思うならその想いを貫けばいいんじゃないですか?
私なら、その想いをガマンすることなんて出来ないと思います。そのくらいアルト君が好きなんでしょう?
涙が溢れてくるくらい・・・それなら、伝えればいいじゃないですか!それでこそシェリル・ノームという人間ですよ!」

目の前で泣き続けるシェリルにランカは自分の気持ちを正直に伝える。

それが・・・一番いいと思ったから。

それが自分のプライドに反するとしてもそれくらい
好きになるとういことは自分を変えれることだと思ったから・・・

「ランカちゃんは・・・素直ね?あたしはまだそんな風にはなれないみたい。
あたしにだって・・・出来ないことはたくさんありすぎて、あたし自身が困っちゃうくらいだもの・・・」

「けど・・・シェリ「いいのよ。」

「えっ・・・??」

「いいの。あたしは後2週間ちょっとしか此処に居ないのよ?
それなのに想いなんか伝えてどうするの?それに伝えたとしても今以下の関係にだけはなりたくないわ。
こんなのシェリルじゃないって思うかもしれない・・・それはね?あたしが一番思ってることなの。
それでも・・・あたしにはムリみたい」

シェリルの涙は止まっていたが、たくさん泣いた後だ。

涙の痕はしっかりと残っていた。

悲しそうな顔をして、冷たく言い放ったシェリルはふと歌いだした。

「神様に恋をしてた頃はこんな別れが来るとは思ってなかったよ・・・
もう二度と触れられないならせめて最後にもう一度抱きしめて欲しかったよ・・・」

ダイヤモンド・クレパス・・・

とても儚いその唄は今のシェリルにはぴったりだった。

そうして、無言になったシェリルは茂みの方へと歩き出す。

「シェリルさん?どこに行くんですか??」

「もう・・・戻るわ。ランカちゃんも暗いから気をつけなきゃ駄目よ?それじゃあね?」

「え、いいんですか?アルト君のこと・・・」

「まったく・・・その話はもう終わり!疲れちゃったわ・・・」

「シェリルさん・・・」

前を歩いていくシェリルを見ながら言葉を失くすランカ。

そのとき、不意にシェリルが振り返る。

「ねぇ、ランカちゃん・・・?」

「?」

呼び声に驚いたランカは急いで顔を上げた。

「こんなサービス・・・めったにしないんだからね?・・・今日のことは内緒よ?」

「あ、あっはい!!」

そういったシェリルの顔はまだ・・・儚いような・・・悲しいような表情を浮かべて去っていったシェリルを
ランカは静かに見つめていた。

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