その他


□You are me
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   ――――――――――――――――――――――

    あたしはいつの日かあんたの影になってた。

      その前まではあたしが光だった。

    あんたは影で、いつもあたしを見つめてた。

  いつの日からかあたしがあんたを見つめるようになった。

     「何故だろう・・・」と何度も考えたんだ。

     けど、考えたことすらあたしは忘れてたんだ。

         あたしは・・・「魅音」

       あんたは・・・「詩音」なんだよ。

   ―――――――――――――――――――――――

・・・これは惨劇が始まる少し前のお話・・・

「お姉・・・ちょっといいですか?」

今日は久々に隠れ家のアパートを抜け出し、魅音に会いにきていた。

もし町で見られてもいいように変装だけは完璧にしてある。

実の親でも見分けが付かないくらいの完璧さだ。

「あんた・・・詩音!?どうしたの!鬼婆に見つかったら拷問部屋送りだよ!!」

突然の訪問に魅音は驚き、
大声は出さない程度で声を張り上げている。

「えへへ。ちょっとお姉に会いたくなって・・・
それにバイトのこととかもあるしね」

「いくらなんでも突然すぎだよ・・・見られなかった?」

「それは大丈夫です!
この通り、変装は完璧にしてきましたから!」

「まぁ・・・それもそうね。とりあえずあがりな。今ならあたししか居ないから
誰かに見つかることは無いよ」

この日は、集会があることで、鬼婆は外出中。
お手伝いさんも勤務時間を過ぎていた為、
現在園崎家には魅音しか居なかった。

「で、用事ってなんなの?」

魅音の自室に招き入れた魅音は詩音を座らせ、
お茶を渡しながら用件を聞こうとした。

詩音は魅音の部屋を物色しつつ、差し出されたお茶を受け取る。

「あぁ、そのことなんですけど・・・バイトを少なくしようと思ってるんです。
それで、その分空いた時間にちょっとやりたいことがあって・・・」

「やりたいこと?・・・もしや野球チームの応援?」

「えぇ、まぁ・・・」

少し頬を赤らめた詩音の態度を見て魅音は口角を上げて
詩音を楽しそうに見る。

「へぇ〜・・・まぁ、いいよ。
詩音にもい・ろ・い・ろやりたいことはあると思うしぃ〜?」

「なっ!そんな変な言い方しないでくださいよ!お姉!!」

「あはは!からかってすまないねぇ〜、とりあえず、今と違う時間帯にあたしが居なくなればいいんでしょ?
分かった。詩音に協力するよ!」

「あ、ありがとうございます、お姉!」

頬を真っ赤にそめた詩音はにこやかに笑う魅音に最高の笑顔と共にお礼を言った。

「まぁ、借りもあるしね!」

「・・・借り?借りなんてありましたっけ?」

「詩音はもう覚えてないかもね〜・・・
あたし、一回あんたに魅音任せちゃったことあったからさっ!
そのお礼!なんでも協力するよ!」

「あぁ、あれですか!たしかに大変でしたよね〜・・・鬼婆が居ないから魅音ちゃんが代わりに出てくれ〜
なんて・・・あのおじちゃん、いつも無理なこと言いますよね」

へらへらと笑う魅音と詩音。

2人はいつも支えあって生きてきた。小さい頃からずっと・・・

その所為で団結力が強く、いざと言うときに応用力が効くのだ。

今もそうやって2人の危機を2人で乗り越えてきた。

「あ〜・・・たしかにね、まぁそういう人だからしょうがないけど」

「そうですね。・・・痛」

「?」

いきなり頭を抱えだした詩音。

それを見て、魅音はあわてだす。

「し、詩音!?あんた大丈夫??頭・・・痛い?」

「ん・・・ちょっと痛いかもです」

痛いのと・・・なにかつっかえている感じ・・・

と詩音は頭を抱えながら思った。

何かが出てきそうなのだが、上手く出てこず
モヤが頭の中全体にかかっている感じ・・・

不思議な感覚に見舞われ、詩音はフラフラとした足取りで立ち上がる。

「お姉・・・ちょっと頭痛いから帰りますね」

「そう・・・本当に大丈夫?」

「えぇ・・・大丈夫だと思います。家でゆっくりしてますから」

「じゃ、気をつけるんだよ?」

「はい」

玄関まで魅音に支えられてそこからはたどたどしい足取りで家へと向かった詩音。

家に着き、ベッドに倒れこんだ詩音は先ほどから続く頭痛にまたも頭を抱えた。

「なんだろ・・・この感じ。なんだか懐かしいです。あ、たし?」

頭の痛さで目が霞む中、幼少の頃の自分が目の前に立っていた。

他人が見れば見分けは付かないが、本人どうしなら見分けることが出来る。

それは紛れも無い幼少の頃の自分だった。

それが今、
自分が自分を見下ろして何かを伝えようとしているのだろうか?

懸命に口を動かしている。

「あた、し・・・は―――??」

頭痛と目の霞みを堪えつつ、
自分が伝えようとしている言葉を分かる範囲で言葉として紡いでいく・・・

けれど、「あたしは」の部分までしか理解することが出来ず、

いつのまにか深い眠りに落ちていた・・・

―――――――――――――――――――――

夢の中で・・・
2人の女の子が手を繋いで走っている・・・

楽しそうに、嬉しそうに、大きな声をあげて笑っている。

詩音はその夢の中で、魅音と詩音の見分けが付かなくなっていた。

「いつもなら見分けが付くのに・・・」
と思いつつ、

2人の女の子を見守る。

これは、惨劇が起こる少し前のお話・・・

そのベッドの上で詩音は深い深い眠りにつく・・・

目覚めるのはもう少し先。

「目覚めたとき、あんたの前には何がある?」

魅音がそういっていた気がした・・・

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