その他


□For you
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「暗い夜に赤い月・・・行けども行けども獣道・・・
この世とあの世の境目で永遠(とわ)に心を通わせようか・・・」

暗い夜道に小石どうしがぶつかり、じゃりじゃりとした音が静かな道に響く・・・

市は真っ赤な鮮血を浴び虚ろな瞳で綺麗なほどに立ち竦み、
静かに音色を奏でていた。

事は先刻のこと・・・丑の刻に1人で城を抜け出し、
この地に落ち着いてしまったという山賊の始末に行った帰りだった。

「ねぇ・・・長政様?市・・・やったよ?
みんな・・・みんな・・・居なくなった・・・悪は無くなったよ??」

呟く声も物静かな夜の吐息に吸い込まれて行く。

両手に持った刀を引きづり、寝静まる民家の間をすり抜けて行く。

ふと、市の動きが止まった・・・

「ねぇ・・・お願いだから死んで?
それが長政様の願いだから・・・」

何も無い場所に話し掛けたかと思うと
スッ・・・っと人影が浮かび上がった。

山賊のリーダーだろうか、それなりの風格はあるが腕や足には無数の傷跡がある。

リーダー格と思われる男は、厳しい表情を向け重い口を開く・・・

「お前・・・長政ってヤツの妻って聞いたぜ?
そんなヤツがなんで俺たちを潰しに来た?長政ってヤツの命か?
ここはお前等の領土でもねぇのに・・・?」
「・・・うふふふふふふふふふふ。
・・・長政様はね?悪が大嫌いなの。だから貴方たちみたいな存在は長政様にとっていらない存在なの。
この前長政様が言ってたわ。貴方たちが農民を困らせるって、どうにかしなければって
・・・市はね?市は・・・長政様のお役に立ちたいの。だから貴方たちの存在を失わせに来たのよ?
だから・・・死んで?」

「な・・・!?コイツ・・・狂ってんのか??いくら旦那のためでも
そこまでするヤツいるかよ・・・」

「なんとでも言って?
市は・・長政様のお役に立ちたいだけなの」

異常だとでも言うような顔をして後ずさる男に対して、
市はうっすらと笑みを浮かべながら男に近づいていく・・・

「さぁ・・・最後の舞曲(ワルツ)を踊って?
市が最高で不可欠な演奏を届けてあげるわ」

「ひぃっ・・・!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!」

一気に走り出す男を平然と追いかけ始めた。

リーチの長い武器を持ち、確かな恐怖と不確かな感情の揺さぶりを与えながら・・・

ついに息を切らした男が足を縺れさせ、地面に転がりこむ。

走るのを止めた市は軽い足取りで男に近づき、
恐怖に凍りつく男の前で刀を振り上げた。

「ひっ・・・
うぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!」

男の醜い最後の断末魔と共に鮮やかな鮮血が飛び散り、
市の頬を赤で染めて行く。

そうして、土手をゴロゴロと転がっていった。

「長政様・・・市、やったよ?長政様のお役に立った??
うふふ・・・あの男たちはもう居ないよ?安心してね?長政様・・・」

転がって行った男の背中を見つめ、呟いた後歩き出した市。

そういって去っていく市の足取りはさらに軽かった。

「長政様?市は傍にいれるならどんな形で長政様の傍にいるとしてもいいの。
利用して?市を。その代わり、市を傍においてね?
それだけが、市の願い・・・」

市の声が無情に響く。

己の使命を果たしたとでも言うような顔振りで去っていく市の背中を
夜の吐息はいつまでも見つめていた。

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