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「ねぇルルーシュ、12月4日、空いてる?遊びに行ってもいいかな?」
〜Happy Happy Birthday〜
11時50分。
俺はタオルで髪の毛の水分を拭き取りながらベッドに腰掛けた。
スザクはまだ来ない。
というか、今日は学校にも来ていなかった。
軍なんだそうだ。
先刻、遅くなるから夕食は先に済ませておいてほしいとのメールが届いていた。
軍なんか辞めてしまえばいいのに。
本当に。
ここのところの疲れがたまっているのを感じて、そのままベッドに仰向けになって目を閉じた。
と、携帯が機械音を放ちながら震えた。
11時59分。
――Suzaku
電話だ。
『ごめんルルーシュっ!!軍が…』
「知ってる」
『今日に限って一日中詰まってて、さっきやっと終わったんだ…』
「あぁ、大丈夫だ。気にするな」
別に拗ねてなんかいないさ。
『本当にごめんね…っ!!…あぁッ!!12時回っちゃった…。ルルーシュ、お誕生日おめでとう。本当は直接言いたかったんだけど、…間に合わなかった』
受話器からスザクの悔しそうな声が聞こえてくる。
俺は思わず少し吹き出してしまった。
『ルルーシュ?』
「いや、ありがとうスザク。電話でも、声が聞けただけで十分嬉しいよ」
『ル、ルルーシュ…っ!!…僕、頑張るから』
「あ、あぁ…」
…?
『ふふ、でも本当は僕が感謝しなくちゃいけないね』
「お前が?」
『そう。神様にさ、』
と、後ろで、ノックも無しにドアの開く音がした。
「『ルルーシュを僕にくれてありがとうございます、って』」
振り返るとそこにはスザクがいて、両耳から同じ声が聞こえてきた。
「スザク…!」
「間に合うと思ったんだけどなあ」
スザクが残念そうに肩をすくめる。
息は乱れて無いし、汗もかいてない。しかしスザクからは風呂上がりかのようにすごい湯気が立ち上っている。
「お前まさか、走りながら電話してたのか…?」
「うん。久しぶりに本気で走ったよ」
スザクは爽やかに笑いながら言うが、会話していてぜんぜん気が付かなかった。
こいつのことだ。きっと、普通の人間では考えられないような速さで走って来たに違いない。
…俺の為に。
「…お前、今日一日中詰まってたって言ってたよな。大丈夫か?つ…疲れてるんじゃないのか?」
「だって年に一度の恋人の誕生日だよ?」
まぁ結局間に合わなかったんだけど、と小さく洩らしてから、スザクはいたずらっぽく笑いながら付け加えた。
「それにいつも君が言ってるじゃないか。僕は体力バカだから、体力は唯一の取り柄だよ」
「スザク…」
思わずきゅんときてしまった。
いや、仕方がないだろう、これは。
「…バカ。お前の取り柄が体力だけのはずが無いだろ…!…優しいところとか、さ…」
「ルルーシュ…っ!!」
スザクが目をキラキラさせて俺を見つめる。
可愛いな。
「他にもあるぞ!天然なところとか、KYなところとか…」
「……ルルーシュ…?」
スザクが微妙な表情になった。
「ふわふわなところとか…か……っ格好いい……と、ころ…とか…」
慣れないことを言って、顔が火照っているのが分かる。
と思った瞬間には、もう抱きしめられていた。