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あの日以来、スザクは放課後にこの保健室へ通うようになった。

まあ、授業に差し障りが無い分、以前よりはずっと良いし、それならば別に来てはいけない訳でも無いし、俺も、その…、嫌な訳じゃないというか…、懐いてくる生徒は可愛いもので…。

適当にお茶を出したり、あれば茶菓子なんかを頬張ったりしながら取り留めの無い話をするのが楽しいと感じられる。

仕事も手伝ってくれるしな。

この前も…


「先生ぇ〜っ、サッカーで擦り剥いちゃったんスけど〜…」

見ればその生徒の腕は、かなり出血していた。

「大丈夫か?今消毒してやるからそこに座ってろ」

「は〜いっ」

俺が消毒液を取りに立ちながら言うと、素直な返事が返ってきた。

「先生」

と、スザクが声を掛けてくる。

「何だ?」

「彼の消毒は、俺がするよ」

「お前、出来るのか?」

「えっ、ちょ、枢木、オレは先生に…」

「うん。だっていつも先生の事見てたから…」

「…そっ、そうか。じゃあ頼む」


と、慌ててそのままスザクに任せてしまったのだが、何故あの時俺は動揺していたんだ…?

確かアイツが何か…

『いつも先生の事見てたから…』

これか…!?

別に深い意味は無いはずなのに…。

…待て。

深い意味って何なんだ…。

最近の俺はおかしい。

気付けばスザクの事ばかり考えている気がする。

疲れているのだろうか。

ただ一緒に過ごす時間が増えただけにしては、何か妙な…。

この症状はまるで…。

…いや、バカな…っ!

やはり疲れているんだ、きっと。


「…先生ってば!!」

「ほあぁっ!!?」

…背中に重み?

…スザクが、後ろから抱き付いて、いる…!?

か、可愛………ヤバい。心拍数が異常だ…っ!

「またぼーっとしてる。ねぇ、大丈夫?」

やめろバカっ、大丈夫な訳あるか!耳元で喋るな…っ!!

「大丈夫だ…っ」

「本当…?」

うわああああぁ!!

首筋に頬をスリっ、て擦るなああっ!!

今ので肩がビクッと跳ねた。


……というか、こいつはいつまでこうやってくっついているつもりだ…?

「…スザク」

「…なぁに?」

「…お前、元々授業サボる気は無かったんだろ?なら何で毎日ああやって来てたんだ?…それから、今も」

有耶無耶のまま見落としていた根本的な疑問。

「………」

ややあってから、長い溜め息が聞こえてきた。

「まさかとは思ったけど、やっぱり気づいて無かったんだね…」

「な…っ何がだっ!!」


スザクの腕がスルリと離れた瞬間、寂しい、と感じた。


「先生」

スザクが俺の座っている椅子をクルリと回転させて、自分と向き合わせる。

「好きだよ、先生の事が…」

「………!」



顔が、熱い。


生徒にそういうことを言われたのは、初めてじゃない。

しかしどれも、教師としての好意を返してきたし、こんなに心臓がバクバクいう事も無かった。

「先生は俺の事、好き?」

好き…?

…ああ、そうか。

この感情の正体は…。

…そしてやはり、この症状の病名は……。


……でも…。

「…俺、男だぞ?」

「知ってるよ」

「俺とお前は、教師と生徒で…」

「ねぇ。俺の事、好き?」


やめてくれ。

そんな強い瞳で真っ直ぐに見つめられたら…。


……駄目だ。誤魔化せない。

「好き…だ…」

スザクが微笑んだので、そのまま唇を受け入れた。

しっとりと少しだけ触れてすぐに離れる。

スザクはもう一度大きく笑うと、椅子に座ったままの俺の腰にがばっと抱き付いてきた。

「嬉しいっ。先生っ、俺、先生の事大好きっ!」

…まったく可愛い奴だな。

「俺もだよ」

そう言ってスザクのふわふわの髪の毛を撫でる。

「へへ〜っ」

可愛い可愛…ちょっと待て。

頭を太股にっ、うわあ、下腹部にぐりぐりするのはやめろっっ!!

内股がビクッと震える。

俺は身体を硬くした。

「先生どうしたの?」

スザクが無邪気な瞳で見上げてくる。

ああ、このままじゃ俺はこんないたい気で可愛い生徒に…っ。

「先生、顔赤いよ?ベッド行く?」

「えっ、いや…っほぅあっ!!」

俺はスザクに抱き抱えられてしまった。

流石、体力測定の結果は伊達では無い。


…まあ今の俺は大人しくベッドに横たわっている方がいいのかもしれないな…。

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