latter
終業のチャイムまであと5…
やたらとテンションの高い女子で溢れ返るバレンタイン用品売り場から、死ぬ思いで勝ち取った材料の数々。
4…
レシピはパヴェ・オ・ショコラに、香りのアレンジを入れてみた。やるからには当然ながら最高を目指す。フッ、家事歴7年を舐めるなよ?
3…
緻密に計算されたラッピングの形式、素材、色彩配置。装飾部の角度まで完璧だ。
2…
シチュエーションは幾つかのパターンが候補に挙がったが、女子軍に阻害される可能性を考慮すると…。
1…
よし。
0!!
「スザクっ!」
「えっ?」
チャイムと同時に俺は呆気に取られるスザクの腕を掴み、急いで教室を後にした。
「あっ、待ってールルーシュく〜んっ!」
「スザク君もー!」
廊下を駆ける俺達を、後ろからいくつもの声が追い掛ける。
「ルルーシュ、いいの?あれ」
スザクは後ろを視線で示す。
「ああ。それともお前は呼び止められてくるか?」
「まさか。折角こうやって君から誘ってくれてるのに、勿体ない」
スザクがニヤリと笑い掛けてきた。
さすが俺のスザク…!
俺も笑い返そうとしたが、在ろうことか、体力の限界だった。
「ルルーシュ、大丈夫?」
「だ…っ大丈…っ」
女子軍が数を増して距離を縮めてきているのが分かる。
俺の足でも逃げられる予定だったんだが…。
「ねぇ、どこに向かってるの?」
…やむを得ない。屈辱的だが、計画の遂行が最優先だ!
最も近くで人気の無い場所…
「視聴覚室っ!全力だっ!」
「了解」
スザクは俺を肩に担ぐと光の速さで廊下を駆け抜けた。
誰にも邪魔されないように、しっかりと施錠する。
…さて、渡さなければ。
……いざ本番となると、これはなかなかに緊張するものだ。
今更だが、そもそもスザクは俺からチョコとか貰いたかったんだろうか。喜んでくれるんだろうか。
…あ、いや。コイツなら……
「スザク」
呼びながら振り返るとスザクと目が合って、慌てて逸らした。
ああもう、シチュエーションとか無理だ!
「あの、……その、つまり…」
「ルルーシュ?」
「これ!」
目を逸らしたまま、紙袋を突き出した。
「作ってみた、から…いるんなら…受け取れ……っ」
顔がもの凄い勢いで熱くなっていくのを感じて、俺はほとんど真下を向いていた。
「えっ、僕に…?」
俺は無言で頷く。
「君が、僕の為に…?」
俺は再び頷いた。
「ありがとう…!」
手から紙袋が離れて、代わりにギュッと抱き締められた。
ほら、コイツは期待を裏切らない。
俺の作ったものなら、何でも喜ぶんじゃないか、なんて自惚れさせてくれる。
「ねぇ、食べていい?」
「……好きに…」
俺が答えると、スザクは俺を膝に乗せたまま机に腰掛けた。
「…まさか君から手作りが貰えるなんて。僕って幸せ者だなぁ。ありがとうルルーシュ」
そう言って、スザクは俺の前髪にキスをした。
それから、本当に幸せそうな顔で、美味しいと何度も繰り返しながら食べてくれた。
…良かった、口に合ったみたいで。
スザク、知ってるか?幸せ者は俺の方なんだよ。
「ご馳走様、ルルーシュ。本当に美味しかった」
「……それは良かった」
「じゃあこっちも頂くね?」
「えっ?」
スザクが唇を重ねてきた。
舌が入ってきて、甘いチョコの味がした。
…うん。まだ風味は落ちていないようだな。
唇が離れる。
「…甘い」
「ね?嘘じゃないだろ?」
そういたずらっぽく言って笑いながら、スザクは俺の制服のボタンに手を掛ける。
「お、おい…っ?何やってるんだ…?」
「何って、今言ったじゃないか。頂くねって。君自分で鍵掛けちゃうし、食べていい?って聞いたら好きに、なんて言うし、誘ってるとしか思えないんだけど?」
「なっ、バカっ、そういう意味じゃない!やめろっ、ここは学校だぞ…っ!?」
スザクには人の言ったことを、無駄に都合よく解釈する癖があるようだ。
「無駄だよルルーシュ。僕もうやる気満々だからね」
…あぁ、これはもう諦めるしか無そうだな。
こういうところが個人主義のままだというんだ。
と、そんなことを思いつつも、嫌がっていない自分もいることを、認めざるを得ない。
悔しいのだが、それに気付いたのはもうずっとずっと昔のことだ。