first
…知っている。
知っているぞ、この雰囲気。
ふわふわそわそわと、妙に落ち着きが無く、やたらと色めき立つ。
〜logical chocolate〜
それは、かつて日本と呼ばれたこのエリアでは、まだまだ寒さが残る時期。
ふわふわそわそわと。
そう、2月14日聖バレンタインデーが、いつの間にか近くなってきているようだった。
申し訳ないが、あれには毎年、少々うんざりさせられている。
鞄やら何やらが、チョコレートというチョコレートで埋め尽くされる。
決して甘いものが嫌いとかそういったわけではないが、数が数なのである。
リウ"ァル伝いで欲しがるやつにこっそりと分けたりなどしても捌ききれない量だ。
…まあ、唯一の楽しみといえば、ナナリーからの愛情がぎっしりと詰まった、手作りのチョコレートが貰えることくらいだ。
あれは、良い。
食すものを幸せな気分にさせる。
…話を戻すが、しかしどうにかしたい。
そうは思っているものの、女子の気持ちと、俺の男としての名誉がかかっている分、対策が打ちにくいのだ。
…と、俺が悶々としながら登校していたときだった。
「おはよう、ルルーシュ」
「スザクっ!」
後ろから俺を呼ぶ、あの爽やかな声が聞こえてきて、反射的に振り返った。
自然と表情が緩む。
ああ、スザクと会ったのは、何日ぶりだろうか。
………
…ちょっと待てよ、スザクは俺の恋人だ。ということは、ここはひとつ、何かあげておくべきなのだろうか。
いやしかし、近年では、バレンタインは女から男に渡すのが一般的だ。
それでは俺が自ら女役であることを認めているようなものじゃないか。
ベッドではあの体力バカに敵うはずも無く、女役に甘んじているが、これ以上そういうところを譲るつもりは無い。
…いいか。何もしなくて。
確かバレンタインは一般的に、ローマ帝国で兵士の婚姻を禁止していたにもかかわらず、密に取り計らった司教ウァレンティヌスが処刑された日が2月14日でどうのこうのと言われているようだが、ほとほと怪しい。
大抵こういった話に美化や脚色なんかは付き物だ。
…でも、後悔はしたくない。
スザクと、出来る内に、…こんなバカみたいに下らない事で真剣に悩んでいられる内に、一緒にこういった行事を楽しんで、季節を重ねていきたい。
…今なら会長の気持ちがまったく分からないでもない。
まああれは、多少悪趣味すぎるが。
…しかし、女役は…。
…仕方ない。
ここは俺が大人になろう。
…あいつから何か用意してくれるとも思えないし。
スザクの奴、少しは丸くなったのかと思ったら、やっぱり根は個人主義のままというか、鬼畜ごにょごにょ……。
…でも好きなんだ。
…好き?
す、好きって…。バカっ。
なんか顔が熱くなってきたじゃないか…!
……いや、充分だ。
「ふふふ…」
俺は自室の机に鞄を置いた。
…ん?
俺はスザクと会ってから今日一日、どのようにして下校まで漕ぎつけたのだろうか。
…まあいい。
「く…っふ…っはははっフハハハハっアーッハハハハハッ!!」
やってやる…っ。やってやろうじゃないか、スザク!絶対にお前を唸らせてやるからなっ!覚悟しておけっ!!
C.Cは聞き慣れた高笑いをバックに欠伸を一つすると、ルルーシュのベッドの上でのそりと寝返りを打った。