bleach(一+日)
□図書室の思い出
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「あ、冬獅郎」
「日番谷隊長だ。黒崎一護」
「今日もやっぱここに居たのか」
「ああ」
そんなやりとりをここ毎日繰り返している黒崎と俺は、放課後学校の図書室に入り浸ることが習慣になった。
時間にしたら二時間くらいだろうか。
日番谷先遣隊が現世に派遣されて数週間経った今、放課後すぐに井上の家へ帰るのがなんとなく気まずかった俺が学校の図書室に居座っていたことを黒崎に発見されてしまったのだ。
「一緒に帰っていいか」と問われ安易に答えてしまったのがいけなかったのか、こうやって俺の帰りをひたすら待つ黒崎は、相変わらず人相の悪い顔わ引っさげてポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「なぁ、冬獅郎」
「……なんだ」
目線は読みかけの歴史書に向けたまま答えると、髪に黒崎の指先が触れたのがわかった。
「……男の髪を触って何がそんなに楽しいんだお前」
こいつはよく俺の髪に触れては、ふんわりと似合わない微笑みを見せて笑う。
こんな髪の何がそんなに興味を引いたのか。
悪目立ちするだけだった髪を罵る人間は居ても、こうやって触れてくる奴は居なかったのに。
「お前の髪、綺麗だよな」
「はぁ?意味がわかんねぇ」
「意外と柔らかくて最初驚いたけど」
「黒崎の髪だって橙じゃねぇか」
「冬獅郎は、なんつーか……日本人離れしてるっつうか」
お互い目立つことには変わりねぇけどな。
そう言ってお前はまた普段使い慣れていないであろう微笑みを、意図もたやすく俺へと向ける。
「まぁ、……日本人だったなんて証拠はねぇからな」
「……?」
「曖昧なんだよ。
生きてた頃の記憶は」
「そうなのか?」
「別に……それを恨んだことはないけどな」
生前の思い出は、
きっと俺を様々な形で弱くさせると思うから。
そんなものは要らない。
そう思う。
「じゃー、今から作るか」
「は…………?」
「ねぇなら作りゃいいだけだろ」
なぜだか悪巧みする子供のように楽しそうな黒崎が、突然俺の読んでいた本を取り上げて言う。
「な、なにする気だ?」
「やっぱ青春の思い出は欠かせねぇよなぁ」
「何?」
「手、繋いで帰ろーぜ」
「っはぁぁ?」
驚きのあまり素っ頓狂な声をあげてしまった俺の手を、有無を言わさず黒崎は引いた。
その手が思いの外温かくて、いつも俺はあまり邪険に出来ないのだ。
黒崎は俺をいつも戸惑わせてばかりだと言うのに、
不思議と嫌いにはなれないのは、きっとこいつの手のひらが
温かいせいなんだと思う。
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