Novel
□笑顔の為なら
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古泉は嘘をついたことがない。
他人はもちろん、俺にさえ。
確かに、嘘はつかないほうがいいに決まってる。
だが、なんというか・・・・。
嘘をつかずに生活することは、たぶんかなり辛いと思うのだ。
俺は聞いたことがある。
「なあ古泉、お前って嘘ついたことないよな」
古泉は少し驚いたようだった。
「ええ、確かに嘘はついていないと思いますが・・・・どうしてです?」
「いや、深い意味は無いんだがな。ただ、それって結構疲れることなんじゃないか?」
「そうですね・・・最近はあまり意識しませんが」
最近は、か。
「時には嘘ってのも大事だと思うがな、俺は」
「・・・涼宮さんの機嫌を損ねてしまう訳にはいかないもので」
ああ、それでコイツは。
「わざわざ気を使ってくださったんですか?」
「ただ、ふと思っただけだ」
機関のお偉方はそんなに厳しいものなのかね。
ハルヒのせいで超能力に目覚めてしまったコイツは、普通の高校生として当たり前のことが出来ていないのではないか。
性格だ、と言われてしまえばそれまでだが、こんなに落ち着いている高校生もいないだろう。
いるといたら、それこそ漫画やゲームの世界の話だ。
「なぁ、古泉」
「なんでしょう」
「・・・俺と二人のときは、嘘くらいつけよ」
一瞬、古泉は予想だにしなかったのだろう言葉の意味を測りかねたのか、固まった。
「まぁ別に無理しなくてもいいがな」
だが固まっていた古泉の表情は、だんだんと笑顔のそれへと変わってゆく。
「はい」
いつもの何を考えているのか解らない曖昧な笑みではなく、子供のような無邪気な微笑だった。
「キョンくん」
優しく名前を呼ばれる。
「何だ」
いつものようにぶっきらぼうに返事を返す。
「あなたはいつもそうやって無自覚に―――・・・ふふっ、涼宮さんの気持ちが少し解った様な気がしましたよ」
あのハルヒの気持ちが解るとは、お前まで頭がおかしくなったのか?
古泉のその言葉の真意は良く分からなかったが、とりあえず、コイツの嬉しそうな顔が見れただけでもよしとするか。
「・・・お前、明日暇か?」
「どうしてです?」
「いや、明日買い物に行こうと思ってな。もしよかったら――――」